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何を、言えばいいのか。
掛ける言葉が出てこなくて
私は口を閉ざしたまま目を逸らせない。
するとエイジが、
ソファーについていた手を解き
私は解放される。
「……なんて。
─────ごめん、忘れて」
そう力なく笑いながら。
「ぁ……」
だけど、やっぱり、
何も言えなかった。
「やっぱ風呂入ってくるわ！
好きなときに帰っていいから」
わざとらしく明るく言う彼。
「わ、わかった」
そう答えると彼は「うん」と頷き、
リビングから出て行った。
「……」
いつの間に消したのか、
テレビは真っ黒に暗転していて
雨も幾分弱まり、
静まり返った部屋に
一人になった私はソファーの上で
膝を抱えてそこに顔を埋めた。
“忘れて”なんて、
そんなこと出来るわけないじゃん。
「ばーか……」
本当に馬鹿。
私も人のこと言えないくらい
“あほ”だけど……。
「……」
本当は。
本当の本当は。
心のどこかで気付いてた。
『いっそのこと、
このまま付き合っちゃわない？』
『嫌いなんて言ってない。嫌いな訳ない。
だから、勘違いすんなって。
─────寧ろ、その逆だから』
そんな言葉とか。
いつも、
何だかんだで助けてくれたりとか。
自意識過剰な勘違いなんかじゃないって、
気付いちゃってたんだよ。
でも、エイジならきっと、
言わないだろうと思ってたから。
『好き』だと─────。
たぶん、“友だち”という線引きを
ちゃんとしてて、
この関係を壊さないでいてくれるとか
勝手に思っていたから。
私は彼を頼りっぱなしで
彼とばかり一緒にいて
それでいいんだって思っちゃって。
何も、エイジの気持ち、
ちゃんと考えられていなかった。
自分のことばっかりで。
大切なこと、霞んで見えてなかった。
どうしたらいいんだろう。
こういうとき。
本当に、
さっきの出来事や言葉を忘れて
今まで通りに接するのが正解なの？
エイジはそれを、望んでる……？
「……エイちゃんの馬鹿─────」
未だに、収まらない心音は。
やっぱり嘘でも
忘れることなんて出来ないよ。
それでも本当に“忘れて”って言うなら。
ざわつくこの思いや、
私の中に残った気持ちも……、
ぜんぶ持っていってよ─────。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2017年3月26日 7時
