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通話を終え、
スマートフォンを握り締める。
「A？ ……何かあった？」
洗面所に篭ったままの私を
訝しく思ったのか、
エイジは扉の向こうで私を呼んだ。
「な、何でもない！ 今行くね」
そう返すと「おー」という
気の抜けた返事が聞こえ、
足音が遠ざかっていく。
それを聞きながら
(……明日か)
私は電話の内容を思い出していた。
『それは』
そら君は、言った。
『明日、直接伝える。
電話じゃなくて、直接言いたい』
きっと、真剣な表情を浮かべていたんだろう。
そう推測してしまうほど
どこか緊張した声音だった。
そのせいでこちらまで緊張してしまって
「わかった」
としか、言えなかった。
「とりあえず、戻ろう」
私は、小さく深呼吸してから
エイジのいるリビングへと向かったのだった。
「あー。 やっと来た」
エイジはソファーに寝転んでいたが
私の姿を認めると座り直す。
私は空いたスペースに座って
ぼんやりと窓の外を眺めてみた。
(雨、強くなってる)
ザー、という雨音が
テレビの音よりも強く聞こえる。
「エイちゃん、平気？」
「何が？」
エイジはこちらに顔を向け、首を傾げる。
「お風呂入んなくて。風邪引かない？」
「あー、大丈夫だよ」
エイジはそう言って見せるけれど
着ている服は
水が染みて色が変わっていた。
髪も、まだ濡れている。
(本当に大丈夫なのかな)
そうは思ったけれど
本人が大丈夫と言う以上、
そうだと信じるしかない。
「それより」
エイジは視線を合わせぬまま口を開いた。
「……さっき、そらと電話してた？」
「え？ うん、してたよ」
エイジは少し拗ねたように
「そっか」と言う。
「……やっぱ教えなければ良かった」
ぽつり、
そう呟いたのを聞き逃さなかった。
「どうして？」
教えなければ─────というのは
言わずもがな私の電話番号のことだろう。
そう訊くとエイジは立ち上がった。
そしてそのまま歩み寄ってくる。
「え、エイちゃん……？」
私の正面に立つと覆いかぶさるように、
ソファーに両手をついた。
囲われて、逃げ場を失う─────。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2017年3月26日 7時
