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私は思わず目を逸らした。
「えっと、その……」
何か話さなきゃ。
そう焦れば焦るほど、
昨日のことが色濃く蘇る。
何も気にしていない風に、
余裕でいようと思っていたのに。
一人あたふたしていると「……ふ」と、
頭上からそんな笑い声が降ってきて
弾かれたように顔を上げた。
彼は、エイジは、笑っている。
数度瞬きをして見据えていると
エイジの表情は
心做しか嬉しそうに見えた。
「そんなに、気にしてたの？」
不意にそんなことを言われ、
反射的に反抗してしまう。
「なわけ！」
でも心は正直だ。
(当たり前じゃんか)
まるで私だけがずっと、
彼を意識していたみたいな。
「言っとくけど、
許すのは今回だけだから！」
人差し指を立てて迫る。
エイジのペースに飲まれちゃいけない。
「今度あんなことしたらぶっ飛ばすよ」
そう言って拳を作ってみせると
再び、エイジは笑んだ。
今度は“嬉しそう”というより
悪戯っぽく揶揄うように。
「“あんなこと”って？」
惚けたように首を傾げられ、
「もういい！」
私は、ふい、と顔を背けると
彼を置いてさっさと歩き出す。
後をついてくるエイジには
見られないように、
私は頬を緩めて笑っていた。
良かった。
謝られなくて。
「……」
やっぱり、私たちの間には
重たい“ごめんね”なんていらないよ。
夏の訪れを告げるような太陽と
爽やかな涼風が心地好い。
「笑ってる？」
「笑ってない！」
横に並んだエイジと
そんなふうに話す。
「嘘つけ、あほ」
口角を上げて、
すっかりいつも通りのエイジが笑う。
「うるさい、ばーか！」
私も負けじと言い返す。
心は晴れやかだった。
ついさっきまで、
泣きそうなほど痛かったのに。
今は、何だか楽しい。
─────誰かさんのお陰で。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2017年3月26日 7時
