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それが、恋の始まりだったと気づいた頃にはもう充分過ぎるほどそらが好きだった。
ほとんど一目惚れのように恋に落ち、今に至る。
エイジはというと、気づいたら近くにいた存在。
もう会いたくないと思っていたのに、あの悪魔はそれを許さなかった。
────あれは、たまたま大学で会った日のこと。
『そらとLINE交換したんだって?』
そんな一言から始まり、「私に絡んで来るな」とあからさまに嫌な顔をしてみると、エイジは終始楽しそうに笑っていた。
『俺ともしようよ』
『絶っっ対に嫌』
何度そう断っても、エイジは一向に退かない。
『あ、いいんだ? Aの秘密、バラしても』
そう言われると、何も言い返せない。
黙って従うしかない。
『……分かったよ、もう!』
私が頷いたのを見て味をしめたらしい彼は、それ以降も何度もこの脅し文句を使ってきた。
本当に悪魔のような存在だ。
私の恋路の邪魔ばかりするし。
とはいえ、エイジはたまに優しかった。
私が彼に幾度となく救われてきたのも、事実だから。
♢
「正直、大学生になったら可愛い彼女が簡単に出来ると思ってました」
学食に着き、飯の載ったお盆をテーブルに置くなりそらが言った。
「えぇー、どうしたの急に」
さすがのAも苦笑気味だ。
彼女は自然にそらの斜め向かいに座った。
ちゃっかりしやがって。
俺は嫌がらせのようにそんな彼女の隣に座る。
案の定、Aは俺にだけ分かるように眉を顰めてきた。
が、知らん顔しておく。
「いやー、青春したいのよ」
「で、彼女が欲しいの?」
と、尋ねてみると、そらは「そうそう」と頷いて食べ始めた。
「ふぅーん」
てことは、そら今フリーじゃん。
ちらりと隣を見るとAは少しホッとしたような、そしてどこか嬉しそうな様子。
「Aでいいじゃん」
と、言うと一瞬その場の時が止まった。
「二人、付き合っちゃえば?」
俺は構わず続ける。 びっくりした顔の二人。
いやいや、Aさ、この言葉待ってたでしょ。
「な、何言ってるの?」
戸惑ったような態度を示しつつ、そらのリアクションを窺うA。
……ほら、頷け。 そら。
「そうだよ、何言ってんのエイちゃん」
違うよ、馬鹿。 俺の言葉に頷けよ。
そらの困ったような笑顔はきっと、Aにとって鋭い刃となった。
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年9月28日 19時