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俺たちが降りる駅に着く直前に、Aを元の体勢に戻してやる。
「A。 もう着く」
彼女は目覚めは良い方で、そう声をかけるだけで直ぐに起きた。
「……私、もたれてなかった？」
少し不安そうに尋ねられる。
俺に、じゃなくて反対側の人にそうしていたらどうしよう、という心配をしているのだろう。
「大丈夫」
いつもAが電車で寝るときはこうしているから、この嘘をつくのにも慣れたものだ。
言うと、Aはホッとしたように表情を緩めた。
「エイジになら別にいいけど、他の人に迷惑かけてたらどうしようかと思った」
「おい」
彼女の軽口に笑ってツッコんでおく。
でも確かに、Aにかけられる迷惑ならどんと来いって感じだ。
迷惑だとも思わないしね。
駅に着いて、地下鉄を降りた。
自宅から駅までは徒歩で行けるし、駅から大学までは地下鉄一本で行ける。
「チャージしていい？」
改札を通ったとき、Aが言った。
「いいよ」
財布とパスケースを手にチャージ機に向かったAを見送り、俺はその向かい側にあるコンビニに歩み寄った。
駅構内にある小さいコンビニ。
ショーケースの中から自分用にペットボトルのコーラと、A用にストレートティーを取り出し、会計を済ませた。
振り向くと、ちょうどAもチャージを終えたようで、鞄の中に財布をしまっているところだった。
「いる？」
「お！」
短く声を上げ、差し出したペットボトルを嬉しそうに受け取るA。
「分かってるねー、私のこと」
「そりゃ、俺だからね」
「はいはい」
これだけ一緒にいれば、好みくらい覚えちゃいますよ。
見た目はふわふわしてるから、ミルクティーの方が好きそうなものだけれど、彼女は意外とさっぱりしている。
「ありがと、エイジ」
そんなふうに真っ直ぐ感謝されると、ちょっと居心地悪くなる。
「……別に」
*
励ましのストレートティー、なのかな。
私は、エイジがくれたそれを一口飲んだ。
いつも意地悪なことばかり言うし、邪魔ばかりするし、だからエイジなんか嫌いだと思っていたけれど……。
私の負った傷を見逃さないでいてくれる。
さり気ない気遣いでいつも、救ってくれる。
彼のそういう優しさに触れると、どうしたら良いのか分からなくなる。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2019年9月28日 19時
