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翌朝。
はじめくんは部屋の窓際の床に倒れ、こときれていた。
身体の前側が血まみれだった。
滅多刺しにされたのだろう。
顔にも腕にも足にも、赤黒い筋が垂れた跡が残っている。
周りの床にも細かな雫が散っている。
倒れているはじめくんの頭上、窓の外には緑の景色が広がっていた。
建物からはアスファルト舗装された道が続いている。
その道が木々の向こうに消える直前、辛うじて見えるか見えないか、という辺りに昨日まではなかったはずの染みがあった。
赤黒い染み。引きずったような痕。
そして、そこに転がる片足だけのローファー。
「あれ、エイちゃんじゃないよね?」
そらくんが誰にともなく尋ねる。
彼は「ね?」と振り返るが誰も頷いてあげられない。
昨夜のエンジン音。
あれは間違いなく、エイジくんの逃亡に気づいた誘拐犯たちが車で追いかけた音だ。
その後に続いた衝突音は……言うまでもない。
地面に残された染みや痕の正体は知りたくもない。
「あいつ……裏切った」
ポキくんが小さく呟く。
「あ?」
そらくんが低い声を発して振り返る。
「なんつった? おい、何なんだよ」
そらくんはそのままポキくんの方へ歩み寄り、胸ぐらを掴んで壁に押し付ける。
「ちょっと!」
私は慌てて止めに入る。
喧嘩はして欲しくなかった。
そらくんの気持ちも分かるし、ポキくんだって、理不尽な死が続いているせいで、イラついているだけだ。
そらくんは黙ってポキくんを離す。
解放された彼は少しよろめいた。
「……」
重たい沈黙が落ち、静寂が広がる。
不穏な空気のまま、私たちは解散となった。
*
ポキくんと私は並んで、廊下の大きな窓の前に立つ。
窓の向こうでは、穏やかに木々が揺れている。
「私……こんなゲーム参加したくなかったし、1人でも多く生き残れるように考えようとした」
でも、もう4人しかいない。 たったの4人。
自分の無力さを呪いたくなる。
せっかく脱出の糸口が掴めたというのに、昨晩から今朝にかけて3人も死んでしまった。
「でも、最後の最後、投票のときは、いつも自分が生き残ることを考えてる。……今も」
ポキくんは何も言わず、私の言葉を黙って聞いていた。
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年8月15日 23時