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なぜ彼の首輪を切る気になれないのか、今やっと分かった。
私は悪者に屈したくない。
だから首輪を切断し、ここから逃げ出そうとしている。
そしてエイジくんのこともまた、本質的には悪者だと感じている。
彼は自分のことしか考えていない。
皆を救うために、という動機でここにいるわけじゃない。
そんな彼に従い、彼の求めるままに動かなくちゃいけない状況が、とても悔しい。
「……っ」
すぐそばにエイジくんの無防備な首筋がある。
ヤスリの先と首筋を見比べた。
────いや、駄目だ。
「ここで俺が死んだら、それだけお前らの脱出も遠のく」
私の考えを読んだかのように彼が言った。
……分かっている。
彼の首筋にこのヤスリを突き刺したところで、得られるものは何も無い。
私はまた涙を流した。
いつの間にか悔し涙に変わっていた。
「……黙ってて」
そう言い、また手を動かし始めた。
*
結局、エイジくんの首輪の切断には至らなかった。
あと少し、というところで時間切れとなったのだ。
私はヤスリを隠し持ったまま部屋に戻った。
ベッドの上で体育座りをして、天井隅を見上げる。
そこにも監視カメラがあった。
それは、無機質な眼差しを注いでいる。
─ガタッ
突如として、ドアが揺れる音がした。
「!」
思わずびくりと肩を揺らす。
心音が速くなっていく。
手足の先がどんどん冷えていく。
確かに私の部屋の扉が音を立てた。
でも、開く気配はない。
その後もガタガタ、と何度か音が鳴った。
人狼が、開けようと試みているのかもしれない。
私は呼吸も忘れて、扉の向こうに意識を集中させていた。
「……」
その夜は、一瞬たりとも眠れなかった。
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年8月15日 23時