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私は浴場の方へ向かった。
タオルが畳んでしまわれている棚から1つ取り出して頬を拭う。
血は乾き始めているせいか思うように取れなかった。
怖い。 嫌だ。 帰りたい。
先ほどの、窓ガラスに映った自分を思い出す。
……赤。赤。 真っ赤。
こんなの、私じゃない────。
「……っ」
再び涙が込み上げてきた。
恐怖か、不安か、そのわけは分からない。
私がどんな悪いことをしたんだろう。
何でこんな目に遭わなくちゃいけないんだろう。
恨めしい。
苛立ちが募る。
衝動的にタオルを投げ捨てると、棚の下の方にあった箱のような何かに当たってしまい、その箱が床にひっくり返った。
ガシャン！と派手な音が響いたが、今は何だか遠くに聞こえた。
血を拭い去ってほんの少しだけ冷静さを取り戻した私は、自分の部屋に戻るとベッドに腰掛ける。
スタンドライトの薄明かりのもと、自分の役柄カードを見つめていた。
「……」
それから宙を見つめる。
トミーくんが死んだ。 首輪は本当に締まった。
人狼も本気にならざるを得ない。
でないと彼ら、または彼女ら、または彼らと彼女ら自身が首輪に絞め殺されてしまう。
今夜、人狼は確実に誰か1人を殺す。
その人狼よりも先に、それこそ獣みたいな恐怖心がひたひたと忍び寄り、私の部屋に入り込んできて、ベッドへ這い上がってきた。
私の身体を確実に捕らえ、呼吸を困難にしてくる。
そのとき、悲鳴らしき声がどこかから聞こえてきた。
気のせいかとも思ったが、耳を澄ますと確かに聞こえる。
思わず縮み上がった。
とうとう現実感が、現実に追いついてしまった。
誰かが、人狼に襲われている。
今まさに、人が人を殺している。
一度聞こえたと認識したら、どんなに些細な音でも耳が拾ってきた。
重いもの同士のぶつかるような音。
そして、悲鳴、悲鳴……。
私は両手で耳を塞いだ。
指の隙間を割って入ってこようとするそれらを、何とか退けようとした。
信じたくない。
自分がこんなひどいことに巻き込まれてしまっただなんて。
こんな現実は、認めたくない。
だけど────、受け入れるしかない……。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2019年8月15日 23時
