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他の何人かも同じように立ち上がって退いた。
たくさんの悲鳴が響き渡っている。
トミーくんは床にも赤い染みを作って、暫くのたうち回っていたがその動きがだんだん小さくなった。
「……分かったでしょ」
はじめくんは椅子に座ったまま、そんな彼を見下ろして全員に言った。
彼の声は震えていた。
彼も、画面越しはともかく、直接こんな光景を見るのは初めてなのだ。
皆肩で息をしていた。
私の心臓は百メートルを全力で走ったとき以上に激しく打っていた。 酸素が足りない。
「満足……?」
はじめくんは立ち上がるとおぼつかない足取りで壁際へ近づき、天井のカメラを見上げた。
「好きなだけ遊べば!?」
彼は一旦口を閉じて俯き、また顔を上げ、吠えるように言った。
「どうせなら俺に賭けて。 分け前をくれよ。
それも、1億も、みんな貰うから……勝つから!」
そんなの無理だ。 少なくとも私には。
こんなの、こんな投票なんて、あと一度だって耐えられそうにない。
ふと、私は他の皆の方へ注意を戻した。
ポキくんは椅子から離れ、床にへたり込んでいた。
上半身が激しく上下している。
当たり前だろう。
今回、2番目に多く票を集めたのは彼なのだ。
トミーくんと立場が入れ替わっていたとしてもまったく不思議じゃない。
「大丈夫……?」
私はポキくんに尋ねた。
彼は真っ青な顔で小刻みに頷いた。
私のことを無視したり、そっけない態度を取ったりする余裕は消し飛んでいたみたいだ……。
*
床に転がっていたトミーくんの遺体を、何人かが協力して彼の部屋へ運んだ。
彼をベッドに寝かせ、頭を覆うまで毛布を掛ける。
私は怖くて彼にも近づけなかったし、彼の部屋にも入れなかった。
私と陸くん、マホトくんは彼の部屋の前に立っていた。
「これから……また、1人……」
陸くんが掠れた声で呟く。
また、1人……死ぬ。 殺される。 人狼によって。
明日も、その次も。
「おやすみ……」
彼は目を合わせないまま、そう言って去って行った。
「……おやすみ」
マホトくんも同じように、自分の部屋に向かって歩いて行く。
私も重たい足取りで廊下を歩き始めた。
途中、ふと窓に目をやると自分の姿が鏡のように映っていた。
顔が、赤い────。
紅潮しているんじゃない。 トミーくんの、血で。
処刑のとき私が無意識に流した涙の痕がはっきり分かる。
それが一筋だけ血を洗い流していたから。
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2019年8月15日 23時