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「こいつは前回のゲームの直後、ガラスの破片を握ってた────」
こいつ、というのは勿論そらのことを指している。
「それで、一旦は気を失ったけど痛みのためにすぐに目を覚ました。
……そのとき、何人かの顔を見た」
「……その一人が、あんた」
私が問いかけるというよりは確認する口調で言うとはじめは頷いた。
「で、考えてみてよ。
普通だったら、そこで物怖じして動けない筈でしょ?」
更にはじめは続ける。
隣に座るそらの表情が険しくなる。
「だけどこいつは、逆襲しようとこっちに向かってきた。
……直ぐに取り押さえられたけどね」
世の中には私より凄い人間がいくらでもいる。
嫌になるくらい。
そらも、その中の1人だったのだ。
ガラス片を握り締めて掌を切る?
痛みで早く目が覚めて運営側に反撃する?
そんなこと考えもしなかった。
考えても、実行に移す勇気はなかったかもしれない。
でも、そらはやった。
すべて本当の話だと素直に信じられた。
彼は狡猾だ。
人狼同士で殺し合いをさせるためにあえて私に白出しをした。
怪しいと思える相手に目星をつけ、2日連続で人狼を当てた。
「……俺は、そのときハッキリとはじめの顔を見た」
そのそらが消え入りそうな声で言う。
「でもルールに違反したわけじゃないから罰せられなかった」
「運営側は徹底してるんだよ。
ルール違反は殺す。
それ以外の行動はたとえ運営側への反抗だとしても見逃す」
そらの言葉にはじめが続いた。
「気付いた。 ここで目覚めて、すぐに」
そらが彼を睨みつける。
「おまえは俺の顔を見て、慌てて首輪に手を当てて、初めてみたいなふりをして……嘘をつこうとした!」
はじめは、そんな彼の言葉をせせら笑う。
「それで そらは俺を脅した。
“自分をサポートしろ、さもなくばおまえが運営側だってバラす”────って!」
そらならやるだろう。
大して驚きはない。
「でもおまえは裏切った!」
先ほどのエイジのように、今度はそらがはじめに掴みかかり私たちに向けて言った。
「聞いたでしょ!?
俺たちに殺し合いをさせた張本人!
こんな奴放っといていいのかよ!」
「確かに俺は運営側だったよ!
誘拐犯の一員だった。 ……だけど」
そらの叫び声を打ち消すようにはじめが言う。
「今は、お前らと変わらない」
投票が迫る。
「今の状況では皆、自分が勝てる選択をするしかない。つまり」
─────そらに入れるしかない。
はじめのその声は静かに重く響き渡った。
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2018年3月10日 16時