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ザクッ、という聞き慣れない音がしてそれは彼の背中に突き刺さった。

真っ白いカッターシャツに赤い染みが広がる。



「動くな!」

エイジは何度も何度も繰り返し、同じようにナイフを振りかざして刺した。

ナイフと虫眼鏡の身体が離れるたびに刃から血が糸を引いていた。

抵抗する力が弱くなってきた虫眼鏡を仰向けに転がして、その上に馬乗りになる。

今度は身体の前側に思い切り突き刺していく。

彼がナイフを振り回すたび、身体に刺さる奇妙な音が響くたび、何人かが悲鳴を上げていた。



最後にエイジは虫眼鏡の首にサバイバルナイフを突き刺した。

じわじわと、血が溢れ出てくる。

虚ろな目の虫眼鏡。

エイジはそのままナイフを横に素早く動かして、首を切り裂いた。

頸動脈が切れたかもしれない。

彼の首からは弱々しい噴水のように血が吹き出ている。

それが、エイジの頬にかかった。

返り血を浴びた彼が見下ろす先に血塗れで死んでいる虫眼鏡がいる。

その目はもう、何も捉えていなかった。



エイジが荒く息を吐き出す。

皆も忙しない呼吸を繰り返していた。

血を浴びて赤いエイジの横顔は、何処か狂気じみていた─────。



虫眼鏡の死体はてつやとはじめが運び出した。

虫眼鏡の部屋のベッドに寝かせておく。

何人かがそれを見届け、最後にてつやが彼に毛布をかけた。



*



私と陸とエイジは洗面台がある部屋に集まっていた。

そこにはタオルなんかも置いてあり、エイジが手や頬に飛んだ血を洗い流したり拭き取ったりしていた。



「……何人かに提案した。
“虫眼鏡は場を誘導してる、怪しいから投票しよう”って」

エイジがタオルで手を拭いながら言った。

「は……?
何相談なしに勝手なことしてんの?」

私は眉間に皺を寄せてエイジを睨んだ。

「それに、虫眼鏡のことあんなふうに殺してさぁ」

その行動ひとつひとつでエイジが疑われて吊られることになったら、私まで死ぬ。

「誰かがやらなきゃ皆死んでた」

エイジも同じ調子で返してきた。

「……俺、ああいう自信満々な奴嫌いなんだよね」

血塗れのタオルを私に向かって投げつけるエイジ。

飛んできた瞬間掠めた血の匂いに思わず顔を歪めた。



そのまま出ていこうとする彼を「ねぇ」と引き止める。

「私たち“恋人”なんだよ。
目立ち過ぎたら狙われる。
……自分勝手な行動しないでくれる?」

エイジは小さく舌打ちして、そのまま歩き去っていった。



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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2018年3月10日 16時

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