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美希さんのことは男子たちが協力して彼女の自室へ運んだ。 重たい空気の中で解散の流れとなったとき、最後尾にいたエイジがその前を歩いていた私の腕を掴んだ。
「ちょっと来い」
冷たく低い声、睨むような視線。 彼は明らかに苛立っていた。
周囲には既に、人の姿はない。 感情的になっている割に、その辺りは冷静なようだった。
彼に腕を引かれるがままに歩く。 抵抗はしなかった。 誰もいない洗面所まで来ると、エイジは私の手首を引っ張り、ダン! と思い切り壁に押し付けた。
衝撃が伝わる。 打ち付けられた背中が痛い。 エイジが私の両肩を掴む指先に力を込めた。 怒りを滲ませた双眸に捉えられる。
「何であんなこと言った? 黙ってる奴が怪しい、とか」
「エイジのことじゃないよ。 私は河西美希が怪しい、って……」
「だったら初めからそう言えよ! “河西美希が怪しい”って! お前のせいで俺まで目立つ羽目になった!」
エイジが私の両肩を揺さぶる。 ぐらぐらと視界が揺れた。 彼の爪がブラウス越しに食い込んで痛い。
「でも結局は────」
「結局は、じゃねぇよ!」
エイジは苛立ちを爆発させる。 突き飛ばされるように解放され、思わずよろめいた。 壁に手をつき、体勢を整える。
「ちゃんとやれよ!」
エイジの怒鳴り声が響く。 憤然と私を見据えている。
「どうせ関係あるんだろ? 好きな奴がどうとか……それと、さっきの発言と」
私は否定も肯定もせず、黙ってその目を見返した。 エイジは私の返答を待たずして詰め寄ってくる。
「お前、人狼か?」
「……違うよ。 それを言うなら、エイジこそ狐っぽいよ」
私は薄く笑んだ。
「はぁ……?」
「預言者に占われたくないから、だから目立とうとしないんだと思う」
「馬鹿言うなよ。 ……目立たないようにしてれば、少なくとも人狼は放っといてくれる」
「……」
放っておいて欲しいのは、人狼にだけだろうか。
何だか違和感が拭えない。 前回のゲームでは、彼はこんな立ち回りはしていなかったはずだ。 目立ちたくない────それって、まるで……。
「とにかく、変なこと言うな。 ちゃんとやれよ!!」
再びエイジは語気を強めた。 私は笑みを消し、億劫さを感じながら彼を見やる。 エイジは呆れたように、そして怪訝そうに私を見た後、歩き去って行った。
その背中を、鋭く目で追う。 私は静かに呟く。
「やってるよ。 ……“ちゃんと”」
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小桜ふわ(プロフ) - 白猫とみせかけてアルビノの黒猫さん» 叫んじゃってください!笑笑 そういったリアクションを頂けるとめっちゃ嬉しいです!d('∀'*) 本当ですか!やったー.*・゚(*º∀º*).゚・*. 今後ともご覧頂けると嬉しいです! ありがとうございます! (2019年5月1日 9時) (レス) id: 43213200ba (このIDを非表示/違反報告)
白猫とみせかけてアルビノの黒猫(プロフ) - 一目惚れ相手が陸君で、キッッッッッッッッターーーー!!って叫びそうになりました。笑笑そろそろふわさんのファンになりそうです、 (2019年5月1日 5時) (レス) id: 18a6a661ff (このIDを非表示/違反報告)
小桜ふわ(プロフ) - (名前)空々さん» ありがとうございますです!! 推薦は本当にただの紛れなんじゃないかと思うんですけど良かったです…!!(*>▽<*) (名前)空々さんも受験生なのですか?もしそうでしたら私が言うのも何ですが、合格まで一緒に頑張りましょうー!! 応援感謝します!!頑張ります!! (2017年12月19日 0時) (レス) id: e6883eaa7b (このIDを非表示/違反報告)
(名前)空々(プロフ) - おめでとうございます!!推薦うらやまです。更新頑張ってください! (2017年12月18日 23時) (レス) id: aab0f67378 (このIDを非表示/違反報告)
小桜ふわ(プロフ) - まちゅさん» ありがとうございますすすすす!!!!恐縮です…! まちゅさんのご期待に添えられるようこれからも頑張ります!応援感謝します.*・゚(*º∀º*).゚・*. ありがとうございますー!! (2017年12月18日 22時) (レス) id: e6883eaa7b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2017年11月25日 12時