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「……そろそろ時間」
シルクくんが時計を目で示した。 場の雰囲気は完全に、美希さんに投票する流れへと傾いている。 一旦こうなってしまえば、流れを変えるのは簡単じゃない。 というか、ほぼ不可能。
皆、自分が処刑されたくないから、今怪しまれている相手に投票してしまう。
美希さんが立ち上がった。
「私は村人。 ただの村人!」
「急に饒舌になったね」
私は冷然と彼女に言い放った。 美希さんが、さっとこちらを向いて「なんで……」と掠れた声を発した。 つかつかと詰め寄ってくる。
「何でそんなこと言うの?」
そのとき初めて、面と向かって目が合った。汚れを知らない綺麗な目だ。
「私が何かした……!? 急に、こんな所連れてこられて。 わけも分かんないまま、こんなこと……人が死んで……っ」
言っているうちに、一粒、また一粒と涙がこぼれ落ちる。
私は目を逸らした。
「時間。 投票、しないと」
ツリメくんの声が響く。 私も掛け時計を見上げた。 秒針が12に重なる。 投票1分前だ。
「席に戻ろう……?」
陸くんが沈痛な様子で促す。
「私、人狼じゃないよ」
「分かってる」
彼は緊張の滲む声で言った。 美希さんがよろよろと後退し、席に腰を落とす。
「せーの!」
シルクくんの合図に全員が腕を上げた。 それぞれ躊躇いがちだったり、泣きそうだったり、決然とした表情だったりしていた。
陸くんはエイジに。 ツリメくんはマホトくんに。 美希さんは……私に。 それ以外は全員、美希さんを指していた。
上手くいった。 狙い通りだ。
─ピピッ
首輪が作動する。 美希さんの首を絞め始める。 彼女は咄嗟に立ち上がった。 輪と首の間に手を入れ、必死で直径を広げようももがく。
「……ぁ、ぅう゛っ……!!」
美希さんが押し潰された喉から悲鳴を上げた。 ふっ、と力が抜け、彼女の身体が前に倒れる。 信じられないほど大きな音が響いた。
ガタン、と勢いよく陸くんが立ち上がった。 悲痛な面持ちで美希さんを見つめている。
彼はただ優しいだけだ。 ひょっとしたら美希さんにたぶらかされていただけかもしれないが、それもあと数分で終わる。 もっと早いくらいかもしれない。
美希さんの悲鳴が響き渡る。 私は目を瞑り、両手で耳を塞いだ。 そのまま小さく深呼吸を繰り返した。 自分の呼吸の音しか聞こえない。
しばらく待って、目は閉じたまま、そっと手だけ耳から離してみた。 美希さんが床で転げ回る音も、悲鳴も、消えていた。
目を開ける。 美希さんは輪の中で仰向けに転がり、動かなくなっていた。
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小桜ふわ(プロフ) - 白猫とみせかけてアルビノの黒猫さん» 叫んじゃってください!笑笑 そういったリアクションを頂けるとめっちゃ嬉しいです!d('∀'*) 本当ですか!やったー.*・゚(*º∀º*).゚・*. 今後ともご覧頂けると嬉しいです! ありがとうございます! (2019年5月1日 9時) (レス) id: 43213200ba (このIDを非表示/違反報告)
白猫とみせかけてアルビノの黒猫(プロフ) - 一目惚れ相手が陸君で、キッッッッッッッッターーーー!!って叫びそうになりました。笑笑そろそろふわさんのファンになりそうです、 (2019年5月1日 5時) (レス) id: 18a6a661ff (このIDを非表示/違反報告)
小桜ふわ(プロフ) - (名前)空々さん» ありがとうございますです!! 推薦は本当にただの紛れなんじゃないかと思うんですけど良かったです…!!(*>▽<*) (名前)空々さんも受験生なのですか?もしそうでしたら私が言うのも何ですが、合格まで一緒に頑張りましょうー!! 応援感謝します!!頑張ります!! (2017年12月19日 0時) (レス) id: e6883eaa7b (このIDを非表示/違反報告)
(名前)空々(プロフ) - おめでとうございます!!推薦うらやまです。更新頑張ってください! (2017年12月18日 23時) (レス) id: aab0f67378 (このIDを非表示/違反報告)
小桜ふわ(プロフ) - まちゅさん» ありがとうございますすすすす!!!!恐縮です…! まちゅさんのご期待に添えられるようこれからも頑張ります!応援感謝します.*・゚(*º∀º*).゚・*. ありがとうございますー!! (2017年12月18日 22時) (レス) id: e6883eaa7b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2017年11月25日 12時