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「さ、三人で行けばいいじゃん!」
張り詰めた空気に怯みながらも
何とか声を絞り出す。
「だよね! 俺もそう思う! 賛成!」
そらが嬉しそうに笑って言った。
エイジは不服そうにため息をついたが
「……Aが言うなら」
小さく呟いて歩き出した。
思わずそらと顔を見合わせると
彼は、にやっと笑って
エイジの背中に思い切り衝突する。
「二人のこと邪魔してごめんね!」
全く悪びれずに大声で叫ぶから
私は呆れてしまったが、
二人は仲が良いのだと
それを再確認出来て安堵していた。
*
学校から出て暫く歩いたところで、
「そらー!」
聞き覚えのある声が響いてきた。
私たちはほぼ同時にそちらを向く。
「え、千夏?」
そこには、千夏ちゃんの姿。
穏やかな笑顔で手を振っていた。
そらは驚いたふうにその名を呼んだが
直ぐ様嬉しそうな表情を浮かべると
彼女に歩み寄っていく。
「どうしたの?
友だちと帰るって言ってたのに」
「そうなんだけど、
何かその子、用事思い出したって先に帰っちゃった」
ただ、二人が話しているだけなのに
頬が強張っていくのが自分でも分かる。
こんな卑しい自分が嫌で、
今すぐこの場から逃げ出したかった。
当たり前に手を繋いで、
お互いしか見ていない視線を交わす、
……二人から目を逸らしてしまう。
(……私、変だ)
何でこんなにヤキモチばかり─────
私の叶わぬ想いも、
二人が恋人同士だということも、
初めからずっと分かっていた事なのに。
今は何だか、もの凄く苦しい。
「俺たち、今日はもう帰る」
俯いた視界の端で赤い髪が揺れたかと思うと
エイジが短く言って、私の手首を取った。
「あとは二人でごゆっくり。じゃあね」
彼は私の手を引き、踵を返して走り出した。
混乱のまま、その後ろ姿を見るが
当然のことながらエイジは何も言わない。
背中に二人の戸惑う声が聞こえる。
でも今は、振り向けなかった。
振り向きたく、なかった。
二人の姿はみるみるうちに
遠くに流れて見えなくなった。
「エイジ……」
人ごみの歩道を走りながら
彼が肩越しにちらりとこちらを振り返る。
そして一瞬、唇の端で笑った。
その笑みに、すべてを悟った。
(見透かされてた─────)
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2017年11月25日 1時