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「あー、今日は来てんね」
朝の混雑する昇降口で
背後からエイジが声を掛けてきた。
その視線の先にはそらと
その彼女である千夏ちゃん。
彼女はマスクをしているが
元気そうな笑顔を彼に向けていた。
「残念だったね」
にやり、と笑うエイジ。
「そんなこと思ってないもん。
そらが嬉しそうで何よりだよ」
遠目に見えるそらの笑顔が
何故だか心に刺さって痛い。
それを必死に隠しながら
私はエイジにそう言い返す。
「はいはい。 よく言えましたー」
エイジは、
わしゃわしゃと私の頭を撫でて
そのまま行ってしまう。
「ちょっと、ぐしゃぐしゃになったじゃん!」
その背中に抗議すると
彼は振り向いて、べー、と舌を出した。
……そういう遠回しな優しさは
いつも、私を引っ張り上げてくれる。
実は凄く救われているんだ。
*
授業中も休み時間も
今日は何故だかいつも以上に
そらのことばかり目で追っていた。
彼が彼女と仲良く話している姿を
遠目に見るのも慣れた筈なのに。
見るたびいちいち傷つくなんて、
私はどうかしてしまったのだろうか。
……いや、きっと違う。
昨日、私がそらのことを
独り占めしたから─────。
だから欲が出てしまったのかもしれない。
(……最低だ)
結ばれることは望まないと心に決めたのは
紛れもなく私自身なのに。
「……私って、不純」
自分の醜さを嘆くように呟くと
隣でエイジが「まじかー」と反応した。
「不純なAさんは今、
何を妄想してるんでしょうね」
「妄想なんてしてませんー!」
そう返してそっぽを向く。
「……そらが、
幸せならそれでいいって思えてたのに
今になって何かもやもやする────
私って、最低。不純」
ぽつりと小さな声で呟くと
聞こえていたのか聞こえていなかったのか、
彼からの返事はなかった。
しかし視線だけは感じていた。
「“見てるだけで充分”とか、
偽善ぽくて俺はそっちのがやだけどね」
背中に投げかけられた言葉が胸に刺さった。
(偽善、だったのかな……)
私の想いは。
そんなふうに曲がってしまっていたのだろうか。
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2017年11月25日 1時