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だから、俺は焦り始めていた。
もしもそらが彼女と別れたら……
Aが気持ちを抑える必要はなくなる。
それに、そらが揺らがないとは
言いきれないのだ。
あいつの“迷い”の原因は
きっとAにあるだろうから─────。
それならば、俺が逡巡している暇はない。
そんな場合じゃない。
あの日、なかったことにしたあの言葉を
今度は本物にして伝えるべきだ。
たとえ彼女が、
俺のことを見ていなくとも。
たとえ振り向くことがなかったとしても。
*
放課後、Aと一緒に帰路につく。
自分でも驚くほど心臓が煩い。
「……」
例によってAは、
あの二人が並んで歩く姿を見て沈んでいる。
「じゃあ、また明日」
家の方向が違うので
いつもの分かれ道に差し掛かったとき
Aはにこやかにそう言って手を振った。
「うん」と無愛想な返事をしてしまって
彼女が踵を返したところで
焦心やら焦思やらが
波のように押し寄せてきた。
違う。引き止めないと。
今日は“いつもの”ように別れる訳にいかない。
早く。
早くしないと──────。
二の足を踏んでいた俺の足が
遠ざかっていく彼女を追う。
「……!」
Aの腕を掴んで歩みを止めると
彼女はふわりと振り向いた。
「ど、うしたの?」
困惑した様子のA。
「突然ごめん。
でもどうしても、
今伝えないといけないことがある」
俺はそっと、腕をほどいた。
彼女はその場に留まってくれたので
小さく安堵の息を漏らす。
もう、覚悟は決めた──────。
*
「今まで本当のこと言えなかったけど……
俺、本気でAのことが好き─────」
直後、顰めて唇を噛み締める。
「また、冗談……?」
その言葉に どきりとした。
「違う、あのときも本当は────
本気で言った、つもりだったんだけど」
あのときは怖かったんだ。
その“二文字”が、今の関係を壊してしまうこと。
そうなればもう、元には戻れないということ。
それを、知っていたから。
だけど、踏み出さなければ。
たとえ壊れしまっても、
ならば一生 “そこ”に留まっていたくはない。
「でも私は、そらのことが─────」
俯きがちにAが口を開いた。
(……わかってるよ、そんなこと)
でも─────。
「もうこれ以上、
そんな顔してるA見てらんないんだよ」
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2017年11月25日 1時