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そらが悪いわけじゃない。
本当に好意での行動だったのだろう。
“私の気持ちを知らない”のは
私が伝えていないから。
─────だけどもう、限界だった。
どうすれば良かったのだろう。
どうすれば、
誰も傷つかずに済んだのだろう。
*
屋上に出て、呼吸を整える。
授業開始を伝えるチャイムが
小さく聞こえた気がした。
「……」
誰も傷つかない選択なんて、
ないのかもしれない。
誰かの笑顔は誰かの涙で、
誰かの幸せは誰かの不幸。
誰かが、必ず傷つく……。
だとしたらその誰かは、
私でいい─────。
始めからそうだったのかも。
ずるずると叶わぬ想いを引きずっていなければ
そらを傷つけることもなかったのに。
彼とエイジが仲違いすることも
なかったかもしれないのに。
“涙”しか生まない想いなら
もういっそ──────。
*
バタン、と扉が閉まる音がした。
「よく言ったじゃん」
それから聞き慣れた声。
振り向くと屋上の出入口にエイジが立っていた。
彼は、座った私の隣に腰を下ろす。
「サボりだ」
「おまえもだろ」
そう言って笑うその笑顔に何処か安心する。
「……辛かったんでしょ」
エイジは真っ直ぐ前を見たまま言った。
「あいつ無神経だわ、やっぱ」
今朝と同じ台詞に
今朝と同じ言葉を返すことは
「……」
───────出来なかった。
「でもそらが悪いんじゃないよ」
「あー、はいはい。
……誰が悪いわけでもないもんね」
「……うん」
強いて言うなら私が悪い。
─────サァ、と風が吹いた。
この風が複雑な気持ちをぜんぶ
攫っていってくれたらいいのに、
なんて柄にもないことを思う。
「ごめん」
考えるより先に言葉がこぼれた。
「そらが言ってたこと、
私とエイジがお似合いだって……
迷惑だったよね?」
エイジが拗ねたような顔をする。
「全然迷惑じゃない。
てかむしろ……やっぱ何でもない」
「えっ」
今なんて、言おうとしたの?
驚きが隠せないまま
そっぽを向いてしまった彼を見つめる。
“むしろ”ってことは、迷惑の逆の言葉?
(それ、は……どういう意味なの?)
跳ねる鼓動に、少し焦った。
*
三角形が、歪んでいく──────。
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2017年11月25日 1時