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#12 ページ12

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─Side E─



Aを一人残したまま、

俺は公園を出て帰路についた。

今日はこれ以上、

傍にいられる気がしなかったから。



『好きだよ』



自分自身で発した言葉に俺が一番驚いた。

あの時だけは躊躇や逡巡がすべて消えて

ただ、心に思ったことが

するりと声に乗って飛び出したんた。



だけど直ぐに後悔した。

今、俺がそれを伝えたところで

困らせてしまうのは目に見えているから。

だからAの言うように、

“冗談”─────ということにした。



それでもきっと、

あれは無かったことには出来ない。

たとえ冗談ということにしたとしても

たぶん何か、お互いの心に

隔たりみたいなものが芽生えてしまう。



──────と、思っていたけど。



「おはよ、エイジ。
今日めっちゃ寒くない?」

翌朝、昇降口で会った彼女は

普段通り過ぎて拍子抜けした。

それが完全に顔に出ていたんだと思う。

「どしたの、そんなあほみたいな顔して」

ぽかんと口を開けたまま何も言わない俺に

Aは笑いながらそう言った。



「おまえより賢いし」

ハッと我に返って、

靴を履き替えながら答えると

「うわ、失礼だな」という

返事が返ってきた。

「こう見えても私、
5分以内にルービックキューブ全面
揃えられるから!」

腕を組んで得意気に威張るA。

「悪いけど、そんくらい俺も出来ますから」

俺はわざとらしく鼻で笑って言い返す。

「えっ、嘘!? 私の唯一の特技だったのに……」

がっくりと項垂れた彼女の肩と俺の肩に

ぽん、と誰かの手が置かれた。



「ルービックキューブで
頭の良し悪し決まってんじゃないからね?」

そらだ。

彼は呆れたように笑ってそう言った。

「うわ、盗み聞きかよ」

顔を顰めると彼は全力で否定し出した。

「違うし!たまたま聞こえただけだし!」

それを適当に宥めて、

ちらりとそらの後方を窺うと彼女が立っていた。

学校までは一緒だったのだろうが

俺とAを見つけて勝手に

こちらに来てしまったのだろう。

「……彼女」

俺は言って、振り向いてみせる。

「あ、そうだった。 忘れてた」



「……」

─────そららしくない。

あれだけベタ惚れだった彼女を

二の次にするなんて。

そう思いながら、Aを見ると

やっぱり浮かべる笑顔がぎこちない。



「じゃ、先行くから」

昨日のように彼女の手を引いて

俺は教室へと向かった。



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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2017年11月25日 1時

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