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「あ、の……私、本が好きで」
マホトくんの優しさに救われながら
途切れそうな言葉を必死に紡いでいく。
「以前読んだ本で、
アメリカ人の元軍人で心理学者の方が書いた……
戦場における、
人間の心理について書かれた本があって」
「うん」
「人は……人を殺すことに、
強烈な抵抗感を感じてしまうそうで……
殺すどころか、殺そうとすることさえ
ほとんど出来ないんだそうです」
空気自体が圧縮されているように息苦しくて
途中でぽろぽろと涙をこぼしてしまった。
「だから何？」
理沙さんが腹立たしげに言う。
「ってことは……
皆、誰も殺せなくて全員が死ぬ、
っていうこと？」
マホトくんが私の意図を測るように訊いた。
慌てて首を横に振る。
「う、ううん、そういうことじゃなくて……」
「だったら何が言いたいの？」
理沙さんの金切り声が飛ぶ。
「そんな高圧的になんなくてもいいじゃん」
マホトくんが彼女を制するように穏やかに言った。
そんな彼の優しさに言葉を発する勇気を貰えた。
「こ、ここを出る方法を……皆で考えたいです」
声が震えそうになりながらも何とか伝える。
「いや、あのね……
俺たちはもう考えたし、やれることはやった」
カンタさんが言った。
……そっか。 そうだったんだ。
私が沈んでいる間に皆は色々試していたんだ。
もう、出来ることはないんだ。
*
夜の8時になる前に私は自室にやって来た。
自室には机と椅子、ベッド、ロッカーがあった。
机の引き出しの中にはノートと鉛筆。
ロッカーの中には着替えが入っていた。
ベッドの上に置いてあった、
綺麗に畳まれた毛布を手に取ると自室を後にする。
毛布を抱えて玄関先まで来ると自動ドアが開いた。
そこにはさぁやが横たわっている。
やっぱりこのまま、野ざらしにしておけない。
せめてこの毛布を掛けてあげたい。
抱えていたそれを広げていると、
「死体だって分からなくなる」
背後からそんなふうに声をかけられた。
振り向くとマホトくんがいた。
「その子の死に意味がなくなる」
そんなことない。
そんなことないけど……仮にそうだとしても
やっぱりこのまま、外に置いておけない。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2019年3月19日 9時
