sideT. 30-2 ページ50
*
「ね、ねぇ」
「……」
「大学、来るよね?」
「……」
背後から掛けられるそのAの声が聞こえない訳じゃない。
それでも俺は何も言わずにリビングに腰を下ろす。
さっきまで重なり合ってた唇が熱い。
その熱い唇から出るのは情けない溜息。
今のが最後のキスになる。
そう分かってたからこそ離したくないと思った訳で──…俺がどんな決意をするかなんて関係なく、Aは"佑亮"の元へ行く。
そんなAを「行くな」って引き止める根性もなければ、見送る根性すらない。
失恋の痛手に湧き上がるのは哀愁の感情。
胸が苦しいほどに痛くて目頭が熱い。
たかが恋愛事なのに泣きそうな自分が鬱陶しい。
そんな感情を抑える為にテレビを点けた俺は、テレビから聞こえてくる音よりも相当小さい物音に気が付いた。
それに気付いた次の瞬間には隣に座る気配を感じて、
「……何だよ」
目を向けたそこに、Aがチョコンと座ってた。
「昨日、あんま寝てないんだよね。誰かさんの所為で」
「知るかよ」
「だからちょっと寝る」
「はぁ?」
「おやすみ」
「おい」
俺の返事なんかお構い無しで、まるで独り言のようにそう言ったAは、その場に寝転び目を閉じる。
*
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作者名:ピカ | 作成日時:2016年6月16日 0時