sideT. 30-1 ページ49
*
後にして思えば、これが俺とAの最後の楽しい時間だったのかもしれない。
重なる唇と混じり合う熱い息。
隅々まで堪能するかのようなそれは、今までで一番深いキスだった。
ペタリとその場に座り込んでも尚もその唇は離さず、ゆっくりと……そして丁寧に舌を絡ませる。
ピクンと揺れるAの体を少しだけ抱き寄せ、微かに離れた唇から漏れる甘い声という音を聞いて再び唇を重ねる。
いつの間にか俺の首にしがみ付くように巻き付けられていたAの腕から力が抜けていく。
そしてそこから離れていき、精一杯って感じで俺の胸元の服を緩く握り締める。
上向きになったままの顔を薄目を開けて見つめると、その顔は少し紅く染まり、Aが抱く高揚を感じた。
ずっとこうしていたいと思った。
このままここでこうしていたいと思った。
だけどそういう訳にもいかず、散々Aの口内を弄んだ俺は、未だに満足していないながらもゆっくりと唇を離していく。
立ち上がった俺を見上げるAの目は完全にトロンとしていて、その表情に掻き立てられる欲は半端なもんじゃない。
それでも1度失敗してる俺は黙って手を伸ばし、そこを掴んだAの手を引いて立ち上がらせる。
そして、
「……ありがと」
少し恥ずかしげにそう言ったAに何も言わずにリビングに歩いて行った。
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作者名:ピカ | 作成日時:2016年6月16日 0時