sideT. 26-4 ページ22
*
夜の事を相当気にしてるらしい。
それがサエコの事を気にしてるのか、俺が手を出そうとして拒否した事を気にしてるのかは分からないけど、気にしてるってのが楽しくて仕方ない。
これだけ俺を意識してるなら振り向いてくれるかもしれないって相当な期待が芽生えてくる。
意識してる感情が喩え嫌いだって感情だろうと、男と女ってものはそこから始まる。
人間なんてどうとも思ってない人間を意識する事はない。
だから罪悪感だろうと何だろうとこうしてAが俺を意識してる事は俺にかなりの期待をさせる訳で。
「……草川先輩……」
「ん？」
「やっぱパン食べたい……」
「……」
……まぁこいつの意識なんてもんはこうしてすぐに消え失せる程度だろうが。
「だって、珈琲飲んだらお腹空いてきたんだから仕方ないじゃん」
「……」
「め、目玉焼きも食べたいって思ってるけどそこまでは言ってない」
「……」
「本当は和食をがっつり食べたいけど」
「……」
呆れてものも言えなくなった俺に、Aはパンを食いたいって言った事への言い訳を口にしてるみたいだけど……どう聞いてもそれは言い訳には聞こえず、
「あ、っと……うん。帰って食べるからいい……」
自分が言ってる事が恥ずかしい事だってようやく気付いたのか、顔を赤らめそう呟き立ち上がろうとする。
そんなAに俺が言うのは、
「パンで我慢しろ」
帰るなって意味の言葉で、その言葉に「うん」って返事して座り直したAにホッとした。
実際は付き合ってないってこの関係にこういう時すげー困る。
本当の彼女なら「帰んなよ」って言えるかもしれないけど、今の俺とAの関係じゃそんな事言う訳にもいかず、
「そろそろ帰るね」
……パンを食って程無くしてそう言ったAを引き止める言葉が見つからない。
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作者名：ピカ
| 作成日時：2016年6月16日 0時
