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「大丈夫です…」
小さくぼそり呟いたAは、シロエのローブをきゅぅと握った。
「シロエさんと一緒なら…」
そう続けようと言葉にしたら、顔に熱が集中するのを感じて俯いた。
長い黒髪に隠れてAの表情は見えない。
シロエは「そ、そう？」と困惑しながらも頷き、笛を空高くへ吹き鳴らした。
まるでひとつの楽器のような甲高い澄んだ音色が青空へと消えていく。
それに応えるような鋭い鷲の咆吼と重い羽根音を響かせて飛来してくる大きな影。
シロエ達の頭上を大きく廻ると、荒々しい勢いで着地し、逞しい首をシロエに向かって深く下げた。
巨大な獅子の身体に、鷲の頭部と羽根、そして後ろ足を持っており、戦闘かなりのものだ。
「ほんとに大丈夫？」
再度念を押すシロエは、グリフォンの首筋を優しく撫でている。
Aは少しおびえたように遠巻きに見ていると、シロエは手を差しだした。
「行こう、A」
シロエの呼びかけにおずおずと手を伸ばす。
ぎゅっと握られた手を強く引かれ、倒れこむようにシロエに支えられたAは、間の抜けたように硬直した。
「A？」
いつのまにかグリフォンの背に跨っているシロエが、不思議そうにこちらを見ている。
自分の名前を呼ばれてハッと我に返ったAは、自分に伸ばされた手に躊躇いつつもしっかりと握った。
シロエは自分の後ろにひょいとAを引き上げる。
「じゃあ、準備はいい？」
「はい、大丈夫です」
「しっかり掴まっててね。いくよっ！」
シロエはブーツのかかとでグリフォンに合図を送る。
グリフォンの鷲羽根が起こす風は殆ど暴力的で、草花が舞い上がるほどだった。
身体がどこかへ放り出されてしまうような感覚に、シロエの腰に思わずしがみつく。
ぎゅっと目を閉じていたAが、ゆっくりと瞼を開けば光が飛び込んでくる。
「どうかな？久しぶりの空は＿＿」
透きとおるほどの一面の碧。
こんなにも綺麗な景色を見たのはいつぶりだろうか。
まるで自分が空の一部となったような感覚に、思わず見惚れてしまう。
「はい。＿＿すごいです！とっても、綺麗＿＿」
この景色を噛みしめるように、無邪気な彼女の笑顔に恐怖はなかった。
それを聞いたシロエは先程の不安は幾分となくなった。
Aを支えるにあたって、今のように背中にしがみついてもらうか、自分の前に乗せるか何度も悩んでいたのだ。
「シロエさん」
「ん？」
「ありがとうございます！」
「＿＿うん」
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作者名：マナ | 作成日時：2020年1月12日 20時
