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「し、シロエさんっ、ま、まってくださっ…」
左手を強引に引っ張られ、足がもつれそうになりながらシロエを見上げる。
彼の表情はわからなかったが、この場から一秒でも早く離れたいと感じさせる程、Aの手を力強く握りしめていた。
彼らが玉座の間を後に歩いていると、レッドカーペットの向こうからセミロングヘアーの茶髪に、紫のベストコートを着た青年がこちらに向かっていた。
すれ違いさまに、青年の青い瞳と目があった。
(なんだか、不思議な人…それに)
彼とはどこかで会ったことがあるような気がしていた。
懐かしいと感じる一方で、記憶を辿ってみても思い出せない。
青年は、玉座の間に消えていった。
貴族が住む上層まで降りてきたシロエとA。
「シロエさん?」
Aに自分の名前を呼ばれ、ハッと我に返ったようにシロエがAの手を放した。
ずっと握りしめていたせいか、まだ温もりが残っている。
「A、僕たちは今からダーハルーネに向かう。その準備に買い出しに城下町へ行こうか」
「…え、はい」
少しの間を空けて、優しい笑顔を浮かべるシロエ。
さっきまでの影の差した背筋が凍るような表情ではなかった。
先程の会話を聞いたところできっとはぐらかされてしまう。
素直に頷いたAは、白いローブを翻したシロエの背中を追いかけ、城下町へと歩いていった。
◆
「とりあえず、こんなものかな」
シロエは自身の《
茶色の古びた革鞄。その見た目に反して、馬一頭分くらいの収納ができる便利アイテムだ。
貴重な素材で作られた逸品。どこにそんなスペースがあるのか不思議になるくらい、なんでも入ってしまう。
「シロエさんの魔法の鞄もそろそろ修理しなくてはいけませんね」
「いや、これはこれで気に入っているからいいよ。せっかくAが作ってくれたものだしね」
永く愛用しているせいでボロボロになっているが、シロエはこれで満足しているようだった。
少し照れたAは、頬を紅く染めて困り顔で眉を下げた。
彼女の職業は、《
魔法の品物に関する知識や扱いに長け、様々なマジックアイテムを作り出す。素材の合成をはじめ、様々な魔法素材の加工を専門としいる。
この世界ではとても希少な唯一無二の存在である。
「すこし街が騒がしくなってませんか?」
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作者名:マナ | 作成日時:2020年1月12日 20時