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ベロニカは信じられないといった表情で、ポカンと開いた口を手で覆った。
彼女だけでなく、ホメロスを除いた彼らは、同様にその光景に呆気にとられていた。
「炎が…消えた…」
メラメラと散る熱に、Aは自身の杖を高く掲げた。すると、彼女の杖の先にある青い花のような装飾品が開花し、迫りくる炎が吸い寄せられるように集まっていく。大輪の花の下には、根に絡められたガラス玉のような球が、海中に差し込む光のように神秘的に輝いていた。
そして、炎がすべて吸い寄せられると、役目を終えたように蕾へと花びらを収縮させた。
「あの?大丈夫でしたか?」
セーニャへくるりと振り返ったAは、ニッコリと微笑んだ。
「あ、はい。あ、ありがとうございました!」
驚いた表情で口をポカンと開いていたセーニャは、不思議そうな顔でこちらを覗く彼女に、慌てて頭をペコリと下げた。
「助けて頂いたのは、私のほうですから」
そう言って彼女は、優しく目を細めた。
(ふん、悪運の強いやつだ)
ホメロスは、チッと小さく舌を打つ。
「よそ見してると危ないぜ!」
「クッ…ハァっ!!」
カミュに隙をつかれ、懐に短刀が伸ばされるも、それを軽く弾き返す。
しかし、カミュに気を取られ、背後から迫るイレブンの剣に気付くのが一瞬遅れてしまう。
「ダメっ!!」
静止の声と腹に伝わる衝撃はほぼ同時だった。
「グッ……この私に、ヒザをつかせるとは…」
ドサッと重く地面に膝をつくホメロスが、ギラリと剣を構えたイレブンを睨みつける。
「ホメロスさま…」
Aは、膝をついたホメロスに駆け寄ろうと足を踏み出すも、それは鋭く射貫くような瞳によって静止された。同時に、ガシャガシャという音が近づいてくると、デルカダールの兵士たちが集まってきているのが見える。
「私を倒しても何も変わらぬ。貴様らはここで捕らわれる運命なのだ!」
じりじりと追いつめられるように追いつめられ、後ろを見ればそこには冷たく波打つ海しかない。
「やめてください!お願いします!」
Aは、イレブンたちを庇うように両手を広げて前に出る。
彼女がやめてと訴えかけるのは、兵士たちの後ろにいるホメロスだった。
まっすぐに彼へと向ける言葉も、まったく届かない。
ぎゅっと唇を嚙みしめ、駄目なのかと思ったときだった。
「みんな、安心して!もう大丈夫よ!」
シルビアが明るい声色でそう云うや、走り出すと地面を蹴飛ばして、海の下へと飛び降りた。
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作者名:マナ | 作成日時:2020年1月12日 20時