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それが気に入らなかったのか、彼は大きく舌打ちをした。
「あの、ホメロスさま？」
「うるさい喋るな」
「あ、すみません。先程から気になっていることがあって…」
「……なんだ」
ホメロスが彼女の首から手を放す。
傷口からは出血が治まっていた。
「私、そんなにひどい顔をしていましたか？」
寝ぼけていて覚えていないのです。と恥じらうように俯く彼女に、ホメロスは口元を押さえて渋るような表情になる。
「あの？」
そんなにひどい寝顔だったのかと心配する彼女に背を向け、兵士たちに叫ぶ。
「まだ見つからないのか役立たずどもめ！こんなザコの見張りなど私ひとりでいいから、もう一度イレブンを探してこい！」
ホメロスに命令された兵士たちは、町の中へと散り散りになっていく。
Aは、小さく肩を落とした。
幼い頃からシロエに連れられ、よくデルカダール城へ赴いていた際、ホメロスとグレイグと話すことも暫しあった。
確かに仲が良いほうではなかったが、嫌われているとなると、それなりにショックではある。
(こいつ、さっきからひとりで百面相してなんなんだ。落ち込んだかと思えば、難しい顔で考え込んで。先程も人の顔を見て、安心したように微笑うなど自分の状況をわかっているのか？)
コロコロと表情を変えて苦悩する彼女を横目に、ホメロスは大きな溜め息を吐いた時だった。何かの気配を感じて振り返る。
「貴様らいつのまにこんな所まで！」
ステージの裏から現れたイレブンたちに、ホメロスは腰にある二本の鞘から剣を抜く。
「チョロチョロと目ざわりなネズミ共め！悪魔の子もろとも、私ひとりでカタをつけてくれるわ！」
金属の弾けるような音が響く。
「ご無事ですか！？今お助けいたします！」
縛られていたAの側に、セーニャが駆け寄ってくると、ロープを解いてくれた。
「あ、ありがとうございます。でも、なんで…？」
「はい？」
セーニャがAの問いに、不思議そうに首を傾げた。
「私、皆さまに助けて頂けるようなーーー」
「Aッ！？」
誰かに自分の名前を呼ばれ、声の方を見れば、熱く燃えたぎる炎が、こちらに迫ってきていた。ホメロスを狙って、それを避けた流れ弾だろう。
Aがセーニャの前に立ち、自身の胸に手を当てる。誰もが避けられない考えが、脳裏を過ぎった。
「う、うそ」
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作者名：マナ | 作成日時：2020年1月12日 20時
