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自分の名前を呼ばれた瞬間、眩い光が飛び込んでくる。
「いい加減目を覚ませっ!!」
すうっと重たい瞼を持ち上げると、見慣れた顔に段々と覚醒していく。
「…ほ…めろす…さま…?」
「お前、この状況でよくそんな顔していられるな…」
呆れたように冷ややかな瞳でAを見下ろすホメロスに言われ、首を傾げたが、腕が動かない事に違和感を感じて、自身を見た。
腕から伝わる圧迫感と足から地面の冷たさを感じ、ようやく自身が捕われていることに気づいた。
(そっか、わたしあの時…)
イレブンたちを逃すために、ホメロスの魔法からカミュを突き飛ばしたのだった。
「何故、あの時庇った。いや、今回だけではない。イシの村の時もだ。お前は、何故邪魔ばかりする」
「…何故かと聞かれると、明確な理由はありません。というより、わからないと言うべきでしょうか」
「なに…?」
ホメロスの納得いかないといった表情に、Aは困った表情で俯いた。
「…な…」
「…え?」
「ふざけるなっ!!」
首筋から伝わる氷のような切っ先が喉に向けられる。刺さってはいないが少しでも動けば、白く柔らかい肌は裂け、赤い液体が溢れてくるだろう。
「お前はいつもそうだ。そうやって勝手に他人に土足で入ってくる。自分の命が危険になろうともだ!今もこうして剣を向けているというのに、何故そんな顔ができる!私がお前を切れないとでも高を括っているのか!!」
「……。では、仕方ないですね。私の言動が気に入らなかったのであれば、謝罪致します。ですが、私はふざける気も嘘も申し上げません。」
彼女は静かに息をすると、目の前のにいる彼の名前を呼んだ。
「私だって怖いのです。剣を握っているのは、ホメロスさまです。私の首を跳ねてしまうなら、それもあなたさまの判断です。だから…」
そっと瞼を静かに閉じた。
ジットリとした汗が全身を冷やす。
緊張と恐怖で震えているのがわかる。
「…ッ」
喉元の皮に切っ先が触れる。
銀色の鉄の塊から、鮮やかな紅が浮き上がった。
「クソッ!!」
カランッと地面に剣が転がった。
「……ホ、ホメロスさま。あの、血で汚れてしまいます!」
そっと触れられた喉元から、鉄の液体がホメロスの手に溢れる。深い傷ではないが、少量の生暖かい液体が首を汚した。
「うるさいっ!傷が開くから黙っていろ!これ限りだっ!次はその首が繋がっていることはないと思え!!」
「…はい」
治療を施すホメロスに、小さく微笑んだ。
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作者名:マナ | 作成日時:2020年1月12日 20時