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(あれは…《さえずりのみつ》?いや、それを魔物用に調合したものか)
《さえずりのみつ》とは、喉を痛めた人が飲むと美しい声を取り戻せるというものだ。
先程よりも元気になったマドハンドを見て、シロエは少し驚いた表情をしていた。
警戒して一口も食べようとしていなかったダックスビルも、それを見て少しずつ食べ始めたようだ。
「きみはホントに…」
言葉を続けようとしたが、シロエはやめた。
はぁ、とため息を吐き、彼女の背中を見つめた。
(…人にも魔物にも優しすぎる)
◆
「なんだかいつもと雰囲気が違いますね。お祭りのような…」
「あぁ、今日はたぶん”海の男コンテスト”の日じゃないかな?」
ダーハルーネの町で例年開催される”海の男らしさ”を競うコンテストであり、開催時は町を挙げてのお祭り状態となり、商業町らしく屋台が立ち並んで賑わいを見せる。
全国的にも知名度が高く、町の名物の一つとなっている。
「それってなにを基準にして決めるんでしょうか?」
首を傾げて考えるA。
「んー、”荒波のようなたくましさ”だったり、”潮風のような爽やかさ”、”海のようなおおらかさ”の三つを備えた人が対象らしいけど、飛び入り参加もオーケーのようだから…」
「では、シロエさんも参加できますね!!」
まるで迷いのない表情でAがシロエを見る。
「それはやめて…」
「シロエさんなら絶対優勝できます!!」
どこからそんな自信が湧いてくるんだと言いたい。
根っからのインドア派のシロエにとって、目立つようなことは苦手だった。
彼女が評価してくれるのはとても嬉しいし、男性冥利に尽きるが、何故だか落ちこんでしまう。
「僕はこれからある人と会わなきゃいけないんだ。Aがそう言ってくれるのは嬉しいけど。」
「そういえば、用があったんですよね」
無理やり話をそらしたが、どうやらAはそちらの話に食いついたようで安心した。
「うん。Aはこの町を見てまわるといいよ。せっかく来たんだし。欲しいものがあったらあとで買おう」
「え、でも…」
「大丈夫。そんなには掛からないから。」
「…はい。わかりました!では、私はお祭りを見てまわりますね」
笑顔でシロエの背中を見送った彼女は、その場でぽつりと佇んだ。
シロエがいなくなり、一人でいると先程まで意識しなかった町の声も耳に入ってくる。
彼女はゆっくりと石畳を歩き始めた。
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作者名:マナ | 作成日時:2020年1月12日 20時