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「僕らができるのはここまでのようです…」
「シロエ様にはいつもよくしてもらっていたんだ。十分です。」
シロエが村長達に深々と頭を下げている。
村長や村人達はシロエをかなり慕っているのだろう。
頭を下げるシロエに、やめてくれと困惑していた。
「お礼なら彼に。僕らはなにもしていませんよ」
シロエは穏やかな笑みを浮かべて、グレイグを指した。
「Aちゃん…あの」
エマは俯いたまま両手をぎゅっと胸元で握りしめている。
なにかを言いたそうに口をパクパク開いては、視線が左右交互に動いていた。
「私に言いたいことがあるの?」
Aの問いに、エマは少しの間をおいてぎこちなく頷いた。
「私にできることなら力になるよ」
エマの手を両手で包み、ガラスのような蒼い瞳でまっすぐ見つめる。
しばらく俯いていたエマは顔をあげると、小さな声で絞り出すように口を開いた。
「あのね、彼を…私の幼馴染の彼をもしどこかで見かけたら、助けてあげてほしいの」
それは、先程思い出した記憶の中にいた少年のことだとすぐにわかった。
「こんなこと…Aちゃんにお願いするのは間違ってるってわかってるけど…」
泣きそうな声で必死に伝えるエマの瞳は、涙で潤んでいた。
蒼い瞳を細めて微笑んだAは、エマの願いに応えるように彼女の手をぎゅっと力強く包み込んだ。
「うん、約束する。彼も私のお友達だから」
◆
パチパチと夜の闇に灯る赤とオレンジの弾ける炎。
生き物の鳴き声も風の音も聞こえない静寂の中、薄暗い夜闇にぼんやりと白く神聖な女神の像が祈りを捧げていた。
シロエとAは女神の加護のもと、小さな聖なる領域にいた。
「気になるかい?イシの人達のこと」
「あはは、シロエさんには隠し事はできませんね」
渇いた笑みで返事をするAの顔は、疲労したように顔色が悪い。
エマ達がデルカダール王国へと連れていかれた後、シロエ達は近くの女神像がある野営地へ向かった.
ここに来る道中から一言も発さなかった彼女は、ずっと何かを悩んでいる様子で思いつめた表情をしている。
そんな彼女を気遣ってか、本に目を向けていたシロエがポツリと呟いた。
「グレイグさんの前ではあんな風に言ってしまいましたけど、ほかにできることがあったんじゃないかって考えてしまって」
「僕はあれが一番の最善だと思うよ。あのまま戦闘になっていたら、犠牲もあっただろうし」
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作者名:マナ | 作成日時:2020年1月12日 20時