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「えっと、そうです」
「やっぱり!私のこと覚えてない?この村にシロエ様と一緒来てた時のこと」
肯定すると少女は嬉しいそうに手を合わせた。
Aは、少女の問いかけに首を傾げる。
それはホメロスの時と同様に感じた違和感だった。
自分には覚えがないという不安と疑問。まるで深い霧で覆い隠されたような感覚だった。
「覚えてないよね、小さかったもんね、私たち…」
エマが悲しそうに目を閉じ、がっかりと項垂れた。
ふと彼女が握りしめていた右手に視線を向けると、壊れかけたブレスレットがあった。
壊れる前は青く輝いていた宝石のような石は黒くくすんでしまっており、銀の鎖がいまにも千切れてしまいそうだった。
Aは不思議とそれを知っている気がして、無意識に手を伸ばした時だった。
頭の中にざーっと砂嵐のようなノイズが走り、視界がぐにゃりと変形する。
搔き乱されるような感覚にひどく立ち眩みを感じ、ぐっとつま先に力を込めた。
『あなたも一緒に遊びましょう!ね、いいでしょ?__』
オレンジ色のスカーフを頭に身につけた女の子の問いかけに、茶髪の少年が大きく頷いた。
『私はエマっていうの!あなたのお名前は?』
幼い二人が自分の顔を覗き込んでいる。
けれど、恥ずかしい気持ちを隠すように、自分の持っていた本で顔を半分覆ってしまった。
『Aちゃんね!この子はルキっていうの。でね、こっちが__!』
私の名前を聞くとエマという女の子は、にっこりと微笑んでくれた。
足元にはまだ生後幼い子犬がしっぽを振って鳴いている。
『今日からおともだち!よろしくね、Aちゃん』
ぎゅっと握られたエマの手の温もり。
同時に感じた心地のいい暖かな何かが胸から溢れてくるのがわかる。
先程までのノイズは消え、鮮明な映像がリアルに流れていた。
「エマ…ちゃん?」
自分の名前を呼ばれ、パッと花のような笑顔が咲く。
「そう!思い出してくれたのね!」
「うん、これのおかげかな」
Aが指したのは、エマの手首にさがる壊れかけたブレスレットだった。
幼い頃、シロエと共に自分はこの村を訪れていた。
シロエしか知らなかった自分にとって、初めて出来た最初の友達。
まだまだ未熟だった自分が錬金術で作った贈り物。
お世辞にも出来のいいものとはいえなかったけれど、エマはとても気に入ってくれていたのだ。
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作者名:マナ | 作成日時:2020年1月12日 20時