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Aの問いに歯切れの悪く返す。
こんな二人の会話もいつもどおり。
はぐらかされ口を尖らせているとAをよそに、シロエの歩速は淡々としていた。
「あら、シロエさんじゃないか」
「おかみ、どうも」
「もしかして、Aちゃんかい?立派な娘さんになったねー。シロエさんの将来は安泰だよ。お見合い話も必要ないようだ。」
「その話はよしてくれ」
”おかみ”と愛称で呼ばれる赤髪をひとつに束ねたふくよかな女性は、デルカダール城下町下層に宿屋を営んでいる。ならず者たちが暮らす決して治安がいいとはいえないけれど、誰もが必死で生きているそんな場所だとシロエから教わった。
他愛もない会話を終え、彼女がその場を後にすると、シロエはどっと疲れたようにため息交じりに笑った。
「ブラックドラゴンを2体同時に相手をするほうがまだマシだね」
他人にはわかりずらい例えを漏らすシロエに、Aがクスリと小さく笑う。
再び歩き出した二人は、貴族の建物が集まる城下町上層へと向かう。
金色に輝く双頭の鷲が建つ階段を上ると、シロエは二人の門番に声をかけた。
「国王へ謁見をお願いしたい。」
「おお、これはシロエ殿。お待ちくださいませ。」
「え、シロエさんっ、え」
彼女がこの状況を脳が理解するまでにタイムラグがあった。
先程はしゃいでいた姿は見る影もないくらい、蒼白になったA。
「お待たせ致しました。国王がお呼びです。どうぞお通りください」
「さあ、行こうか」
「あっ、待ってください!」
一人の門番が戻ってくると、二人に敬礼をした門番があっさり城につながる門を開いてくれた。
「そんなに不安かい?」
「だって…」
城の中に入っていくシロエに、そう言いかけ言葉を詰まらせた。
彼女にとってあまりここに来るということは、昔ほどいい思い出がない。
自分には到底縁のない煌びやかな場所が、今の感情を増幅させる。
ああ、いますぐ逃げ出してしまいたい___
そんな弱音を心の中で呟いていれば、玉座の間へと辿り着いてしまった。
ギイ…と重たく鈍い音が鳴る。
整列した兵士たち。その両端には、後ろひとつに結んだ長い金髪とやや目つきが悪い壮年男性は、純白の鎧を纏っている知略のホメロスの二つ名で知られるデルカダール王国の将軍兼軍師。そして、漆黒の鎧を纏い、紫髪のオールバックの2メートルくらいはあるだろう大柄な男は、グレイグ。相方と並ぶ”双頭の鷲”と称されるほどの人物だ。
「よく来たな、シロエ殿。」
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作者名:マナ | 作成日時:2020年1月12日 20時