005 ページ1
◇
「今日はお天気がいいので、お洗濯日和ですねー」
「呑気すぎでしょ…」
朱里は呆れたようにげんなりとした表情で、Aを物言いたげな目で見つめた。
「あ、朱里ちゃん、朱里ちゃん!見てください!」
「なによ…」
「凄いです!立派な池がありますよ!」
「池っていうか…、穴にみえるけど」
Aの指す方向を見れば、そこには干乾びてぽっかりと穴の空いた場所があった。
「でも、この橋。叔父さんのお家と同じですよ!」
それでも池だと分かったのは、Aも朱里も見覚えがあったからだった。
「あー、確かに家と同じデザインの橋ね。そもそも和風の庭園なんてみんなこんな感じだと思うけど」
ぽっかりと乾いた池に寂しくかかる赤い橋の上を、歩きながら朱里は興味なさそうに呟いた。
「A様と朱里様は、立派なお屋敷に住んでいらしたのですね。」
「はい。朱里ちゃんの叔父さんのお庭はとても綺麗なんですよ。綺麗色のお魚さんもいて。ここもお水を入れて、お魚さんもいたらとっても綺麗でしょうね。」
Aの肩に乗っているこんのすけは、楽しそうに話す彼女を見て俯いた。
「A様、わたくしのせいでご迷惑をおかけしてしまって、本当に申し訳ございませんでした。」
申し訳なさそうに両耳を垂れさせているこんのすけに、Aは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに目を細めて微笑んだ。
「いいえ、迷惑だなんて思っていないです。むしろ、私はお礼を言いたいと思っているのですよ」
こんのすけは黒い瞳を揺らして、驚いた表情で目を見開いた。
「私、皆さんに出会えて良かったです。もちろん、最初はびっくりもしました。でも、突然来た私を、皆さんは迎え入れてくれました。きっと、私の存在は皆さんにとって不安でしかないのに、それでもここにいる事を許してくださった。私は、それがとても嬉しかったです。とても感謝しているのです。」
優しく微笑むAに、こんのすけは不安そうな眼差しで見上げる。
「A様は、ここにいたいと言ってくださいました。皆さんの姿を見ても、会えて良かったと。でも、今はそう思っていたとしても、いつか後悔する時がくるかもしれません。ここに来なければ良かったと、皆さんに会わなければ良かったと、思う日がくるかもしれません。」
Aは物悲しいげに青みがかった黒い瞳を揺らす。
こんのすけが抱える不安は、ここにいる彼らが抱いている不安と同じだ。Aはそう感じていた。
132人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
橋本アリィちゃん(プロフ) - とても面白かったです!続きを待ってます!(*´ω`*) (2021年10月8日 3時) (レス) @page2 id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:マナ | 作成日時:2021年10月4日 19時