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「…」
「…えっと」
燭台切に案内された場所は、障子で仕切られた一部屋だった。
ひとつの家具も置かれていないその部屋に入ってみれば、先程の青年の他に、数人が左右一列に座っていた。
座るように案内されたAと鶴丸は、言われた通りにその場に腰を下ろす。
燭台切は、障子を開けたままAの後ろで正座をした。
どれくらい経ったかわからない程の沈黙が続いたあと、彼が思い出したかのようにニッコリ笑た。
「そういえば、名前を聞いていなかったな」
「は、はいぃ！芽蕗Aといいます！よ、よろしくお願いします！」
「はっはっは、まあそう緊張するな。俺は三日月宗近。色々と聞きたいところではあるが、まずは何故ここに来たのだ？」
Aは先程、燭台切に説明した通り話し始めた。
三日月は終始、笑顔を崩さず、彼女の話を黙って聞いていた。
「ふむ。ではお主は、最初に来た場所に戻りたいというのだな。」
三日月が確認するように呟いた言葉に、Aは静かに頷いた。
「なぜだ？元居た場所に戻るためか？」
「も、もちろんそれもあります。でも、あの場所には大事なものを置いてきてしまって…」
「大事なもの…とは？」
「お父さんが使っていた手帳です。その中にはお母さんの写真も入っているんです。だから、早く探しに行かないと…」
Aは、自分の制服のスカートを皺になるほど強く膝の上で握りしめる。
今にも泣きそうな弱々しい彼女の声に、「そうか」と三日月は短く呟き、目を閉じた。
「勝手にお邪魔して、図々しいお願いですが、もしご存じであれば教えてほしいのです！」
「ふむ、だが…その必要はなさそうだぞ」
「…え？」
どういう意味なのかとAが口を開こうとしたとき、三日月は自分の背後に視線を送る。
三日月の視線の先を追いかけて振り返ってみると、そこにはとても美しい女性が立っていた。
雨に濡れた烏の羽根のように黒く、艶のある長い髪は、腰下まで伸びている。
透き通るような白い肌に、赤くみずみずしい唇、夕陽をガラス玉に閉じ込めた瞳は、まるで人形が生きて動いてるのではないかと思う程、浮世離れした美しさだった。
「相も変わらずここは埃臭いな」
「お主はいつも口が悪いな。」
黙っていれば文句のない才色兼備なんだがなと付け加え、三日月は着物の裾で口元を隠して笑っている。
(な、なにやらお二人から凄まじい勢いの冷たい風が…)
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作者名：マナ | 作成日時：2021年8月2日 16時
