カッコイイです！ ページ6
◇
意識が覚醒し始めたと同時に感じたのは、身体に重りを背負わされたのような感覚と額に伝わる冷たい濡れた感触。
重い瞼を無理に開ければ、視界には木材天井が映る。
「…あっ、目が覚めましたか！」
明るい安堵の声が聞こえ、首を少し動かせば、自分を見下ろす少女がパッと笑顔になる。
どこかぼんやりと霧がかった視界だったが、少女の姿に驚き、飛び起きた。
「わっ、だ、駄目です！まだ安静にしていないと…」
先程の笑顔から急に不安そうに眉を下げる少女に、思わずピタリと身体を静止した。
それは目の前の少女が、あまりにも心配そうな顔をしていたせいだろうか。
それともただ無理に起き上がろうとしたせいで、反射的に身体が動くことをためらったのか。
少女は両手で丁寧に水の入った透明な円筒形グラスを持ち上げると、自分の目の前に差しだした。
「勝手に台所を使ってしまってすみません。あの、水飲めますか？」
優しく微笑んだ少女は、水を受け取ることもなく、ぼうっと自分の事を見つめる青年に、首を不思議そうに傾げた。
ハッとして、思わず少女から視線を逸らした時、厨房の入り口付近で壁に背を持たれかけている彼に目を大きく見開いた。
「つる、まる…さん」
ただ無表情に、反応をすることもなく、その透き通った金の瞳と目が合った。
「つる、まるさん？…まぁ！つるまるさんというですね！もしかして、お二人はお知り合いなのですか！」
少女は胸の前で両手を合わせて、”つるまる”と呼ばれた彼にとても嬉しそうに微笑んだ。
「…えっ、君、知らずに彼と一緒にいたの…？」
「はい。実は…」
少女はこれまでの経緯を簡単に説明していく。
話し終わる頃には、自分の身体は大分軽くなっていた。
「あっ！自己紹介がまだでした。私、芽蕗Aといいます。」
「あ、僕は…燭台切光忠。」
「では、燭台切さんとお呼びしても大丈夫ですか？」
ニコッと微笑んだ彼女に、燭台切は困った表情で一言「うん」と答えた。
「とても素敵なお名前ですね！」
「…す、すてき…？」
「はい！とてもカッコイイと思います！」
「あ…ありがとう…」
それがお世辞ではないことは、不思議と彼女の笑顔でわかった。
会ったばかりで、どうしてそう思うのかは燭台切にもわからない。
ただ、彼女の笑顔に嘘はないように感じられたから、気付けばお礼の言葉が漏れていた。
「つるまるさんは、名前なのですか？」
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作者名：マナ | 作成日時：2021年8月2日 16時
