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薊は透き通るような声で鳴くと、長く伸びる尻尾のひとつをAの腕に絡ませた。
「よろしくお願いします。こんのすけさん。では、お言葉に甘えて行ってきますね。朱里ちゃんも行きましょう。」
「じゃあ、碧。後の説明は任せるわ。」
二人と二匹が広間から出て行ったのを確認した碧は、先程まで自分が座っていた場所に腰を下ろした。
「これから話すことはAのことだ。まず、単刀直入に言おう。飯綱使いは俺ではなく、Aだ」
碧の言葉に、鶴丸以外は意外だといわんばかりに、驚いた表情を浮かべた。
「ちょっと待ってよ。Aちゃんには、霊力がないって言っていたじゃないか…。なのに、どうして…。」
「燭台切。鶴丸が言っていただろう。飯綱使いは血が最も重要なのだと。それはつまり、Aの血族がそういった家系ということだろう。」
三日月は確認するように視線を碧へと向ける。
「ああ、そうだ。元々、薊はAの母親が使役していた。”
碧はどこか遠い目をしていた。
Aが嬉しそうに話してくれる母親の事について、三人は気にならないわけではなかったが、何故かそれを詳しく深掘りするのは今の状態では悪い気がした。
「本来であれば、Aが飯綱と盟約を交わすことはなかったんだ。それはAの母親と薊の約束でもあったからな。Aが生まれてくることになった時、母親は彼女には普通の女の子として生きてほしいと願った。薊は、それを叶えようとした。自分が消えることを対価に、母親とAの幸せを願ったんだ。」
普通であれば、主従関係の間柄だ。
情など芽生える関係ではなかった筈なのに、母親と薊は違ったのだと言う。
碧は、それは異質ともいえる約束で繋がっていたんだと呆れたように笑った。
「それでAちゃんにはそういった類の力が感じられないわけか…」
「だが、母親の墓参りに行った時だ。Aと薊が出会ってしまったのは。」
本来であれば、薊を認識すらできない筈のAはその時だけ見えたのだという。
Aの母が好きだった遠い地で、一緒に眠る事を選んでいた薊。碧は溜息を吐いた。
「あくまで推測だが、Aが薊を認識できたのは、母親の墓の近くだったからだろう。それ以降は、認識することはできないと言っていたからな。」
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作者名：マナ | 作成日時：2021年8月2日 16時
