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「どうして、そんなに平気そうなの？」
我ながら、無神経な事を言ってしまったと感じた。
「忘れるんだよ。ここに来た事も、全部、初めからなかった事になるんだよ。」
平気だなんて、そんな筈ないのに。
「なんでそんな簡単に割り切れるのさ。忘れたら意味なんてない。Aちゃんの言ってることは、綺麗事じゃないか。」
違う。僕が言いたいのはこんな事じゃない。
こんな風に傷つけたいわけじゃない。
「Aちゃんは忘れたらそれで終わりかもしれないけど、僕達は…僕は…」
どうしてこんな風にしか伝えられないんだ。
「…こんな気持ちになるくらいなら、関わらなければ良かった。」
ああ、格好悪い。こんな自分は駄目だ。なんて、醜いんだろう。
「君と出会わなければ良かった。」
――そうして僕は、彼女から逃げた。
◇
燭台切は自分の食器を重ねて持ち上げると、広間から逃げるように出て行った。
「まっ、待ってくださいっ！燭台切さんっ！」
足早に広間から出て行く燭台切の後を、Aが追いかけようとした瞬間、左手をふいに引っ張られる。
「つ、鶴丸さん…」
Aの左手を掴んだままの鶴丸は、座ったままの状態で彼女を見上げていた。
鶴丸はAの左手を離すと、静かに立ち上がり、彼女の頭にそっと手を乗せた。
彼女の頭から自分の手を離すと、食器をまとめた鶴丸は広間を出て行った。
「今は
悄然として立ち尽くすAに、審神者はなにかを言いかけるも、すぐに口を閉ざして立ち上がった。
魂が抜けたように反応のないAを審神者は一瞥すると、彼女もまた広間から出て行く。
そんなAの姿に、複雑な表情を浮かべる者はいても、彼女を心配して声をかける者はいない。重く、静かな空間にいたたまれなくなったのか、殆どの者は逃げるように広間から出て行こうと立ち上がった。
「…乱、どうした？」
黒い髪の少年に名を呼ばれるも、乱はAの背中をじっと見つめていた。
乱の様子に、黒い髪の少年は眉間にくっきりと皺を寄せて、不満そうな表情を浮かべる。
「乱、行こう」
少年は乱の腕を掴むと、強引に立ち上がらせる。
乱は少年に上で引かれながらも、Aの背中が見えなくなるまで見つめていた。
静まり返った広間に、含み笑いする声が響く。
「本当にAは、不思議な奴だな」
その声に反応するように、Aは声の主へと顔を向ける。
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作者名：マナ | 作成日時：2021年8月2日 16時
