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頭をゆっくりと下げる彼女に、彼はすこし驚いた表情を見せたが、すぐに無表情に戻る。
「えっと、あなたのお名前は…？」
彼は辺りをキョロキョロと見渡し、何かを探しているようだった。
そのしぐさにもしやと、彼女は首を傾げる。
(もしかして…お話することができないのでしょうか…？)
出会ってから今まで、彼が話さないのはただ無口なだけなのかとも思ったが、彼の様子から察するに違うのかもしれない。
Aは少しの間考えると、ぱっと笑顔で両手をあわせた。
「あっ！そういえば鞄に手帳とペンがありました！これに書いて頂ければ…」
そう言いかけて彼女の表情が一瞬で青ざめる。
「たっ、大変ですっ、鞄が…」
暗い空間を歩いていた時、確かに肩にかけていた筈の学生鞄がないことに気付く。
恐らく彼の刀を受け止めようとした時に、その場に置いてきてしまったのだろう。
「どうしましょうっ、鞄の中には…お父さんの手帳が…あの中には、お母さんの写真もあるのに…」
彼女の瞳からは大粒の涙が零れ落ちそうだった。
弱弱しい彼女の掠れた声に、気まずそうに頭を掻く彼はどうしたものかと困惑した。
「今すぐ、あの場所に…でも…」
あの場所に戻るにしても、ここがどこかもわからない。
どうしていいかわからず、また目の奥が熱くなる。
途方に暮れる彼女の腕を、彼は優しく掴んだ。
そして彼は、丘の下を指さす。
その先には、とても立派な和風のお屋敷が建っていた。
もしかしたらあそこに行けば何か分かるかもしれない、と言いたげな視線でこちらをじっと見つめてくる彼に、Aは首を傾げる。
「もしかして、一緒に行ってくださるのですか…？」
言葉の代わりに、彼はAの腕を掴んだまま、ゆっくりと歩き始める。
Aは、白くて細い彼の背中を見上げる。
「ありがとう…ございます」
Aは先程よりも明るい声を漏らす。
彼の背中を見上げて、Aは朗らかに目を細めた。
◇
「わぁ…近くで見ると立派です!」
歴史の教科書に載っていそうな屋敷は、左右どちらを見回してもどこまでも塀が続いており、屋敷内はとんでもなく広いのだろうと想像させる。
Aはキョロキョロと門前調べたが、インターホンのようなものはなく、どうしたものかと眉を下げた。
「すみませーん！どなたかいらっしゃいますかー！」
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作者名：マナ | 作成日時：2021年8月2日 16時
