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「珍しいね。君がここに来るなんて。もしかして、Aちゃんに会いに来たの？」
「なんの冗談だ。俺はただ、此奴がここにいたから…」
山姥切と呼ばれた彼が、下げた目線の先を燭台切も追いかけると、彼のボロボロになった布の後ろから、小さな身体を半分覗かせていた。
「乱君…」
燭台切は目を見開いて、本当に驚いたという声を出す。
桜色がかったブロンドに輝く長い髪を揺らして、スカイブルーの瞳がこちらをじっと見つめていた。
「どうし…あ、ごめん。そっか。もしかして、Aちゃんに会いに来たのは乱君の方かな？」
山姥切の布を掴んで俯く乱に、燭台切は優しく問いかけた。
「何故、そう思う？」
黙ったまま俯く乱を見かねてか、ただ疑問に思ったのか、山姥切が口を開く。
燭台切は暫く考えてから、ニッコリと微笑んだ。
「なんとなく、かな？」
「…は？」
燭台切の思わぬ答えに、意味が分からないといった様子で山姥切は目を丸くする。
「ただ遠くから見ているだけでもいいと思うんだ。それでも彼女の笑顔が力をくれる。不安でどうしようもない感情を解かしてくれる。それで、もし、彼女に会いたくなったら、話したくなったら、手を伸ばしてみて。きっと、その時は、彼女は笑って迎えてくれると思うから。」
乱は黙ったまま、優しく微笑む燭台切を暫く見つめていたが、小さく頷くとまた、山姥切が羽織っている布の後ろへと隠れてしまった。
「…あんた、変わったな」
山姥切は布の隙間から、驚いたような、理解できないといった複雑な表情を浮かべている。
「そう思うのは、きっと彼女のおかけだよ。僕はまだ、何も変わってないし、変えられてない。彼女は僕の事を格好いいと言ってくれたけど、それでも僕は僕の中にある汚い感情を恐れてる。彼女が僕を格好いいと言ってくれた言葉は、嘘じゃないって思うから、余計に怖くなるんだ。それでも、こんな風に前を向いて進みたいって思うのは、彼女がいてくれるからだと思う。」
「…そう、か」
山姥切は穴の開いた布を片手で引っ張り、さらに深く被りなおして背を向ける。
「もういくの？」
「ああ、写しの俺になんか会いたくないだろうしな。いくぞ。」
山姥切はそう言い残し、乱と一緒に出てきた入り口から去っていった。
「すみません！遅くなってしまいました！…ん？燭台切さん、どうかされましたか？」
「おかえり。なんでもないよ。それじゃあ、始めようか！」
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作者名：マナ | 作成日時：2021年8月2日 16時
