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その後、燭台切とA以外は言葉を交わすことなく、食事を終えた後はそれぞれ自分の部屋へと戻っていく。
「そういえば、名前を聞いてなかったな」
誰もいなくなった広間で、一人で食器を片付けるAに、湯呑に入ったお茶を啜りながら、三日月は食器を片付けているAの方を見た。
「あ、すみません！えっと、芽蕗Aと申します。よろしくお願いします。」
エプロン姿のAは、手に持っていた食器をテーブルに置いて、膝をついてから軽く頭を下げた。頭を上げた後、Aは眉を下げて不安そうな表情をする。
「あの、三日月さん。私は、本当にご厄介になってもよろしかったのでしょうか？」
「なぜそう思う？」
「そ、それは…」
俯いた彼女の表情は前髪に隠れてよくは見えない。
「気にすることはない。皆、どう接してよいか、わからないだけだ。むしろ、俺は感心している。あんなに楽しそうに話す燭台切は、久しいからな。それは皆も思っていることだろう。さて…」
飲み終えた湯吞みをテーブルに置き、三日月は立ち上がる。
「俺はそろそろ休むとしよう。では、また明日な。」
「はい！おやすみなさいです！」
Aも弾かれた様に立ち上がって、深々とお辞儀をする。
三日月がいなくなった後、静かな広間にぽつんと残されたAは、ふと先程の食事中の事を考えていた。
誰も会話をせず、美味しいとか楽しそうな表情を見せない彼らの事。
最初に広間で見た彼らの表情と食事中の彼らの表情が変わらない事。
楽しそうに話す燭台切の瞳の奥が時折悲しい何かを含んでいて、寂しい気持ちにさせる。
(わたしには、なにかできることはなのでしょうか…)
テーブルに置いた食器を手に持ち、台所へ向かおうと踵を返すと、とん、と何かにぶつかった。
「ひゃっ！つ、鶴丸さん！すす、すみません！ボーっとしてい、て」
ぶつかった拍子によろめかないよう、鶴丸は彼女の両腕をしっかりと掴んでいたようで、彼の腕の中にいる状態で見上げれば、鶴丸の顔が至近距離にあって、Aは途端に顔を真っ赤にする。
「ああ、あの、つるまるさん、えっと、あわわわ」
ジッと顔を覗き込んだ後、鶴丸がそっと自身の手をAの頭にのせて、優しく撫でた。
彼の表情は相変わらず人形のように無表情だが、どこか優しい気持ちにさせるその手の温かさに、Aは驚いた表情で首を傾げる。
「もしかして、励まして、くれているのですか…？」
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作者名：マナ | 作成日時：2021年8月2日 16時
