008 ページ13
「その娘を元居た場所に戻すには、まだ時間がかかる。その間、ここで面倒をみてやれば良いと言ったのだ。だが、そこの三日月と燭台切以外は反対のようでな。まったく、どこの長谷部も頭が固くて話にならん」
「なっ…これだから審神者は！」
二人の間には、先程の三日月と違い、バチバチと激しい火花が散っていた。
「あ、あの。私なら平気です。これ以上皆さんにご迷惑をおかけしてしまうなんてダメです。大丈夫です！野宿も慣れればきっと楽しいです！こう見えても気力と体力には自信があるんです！」
Aは掌を握りしめてグッと天井を見上げる。
その姿に彼女の隣にいた三日月が突然「はっはっは」と笑った後、Aの腰に手を回して抱きとめる。
「なら。俺が世話するというのはどうだ？可愛い孫ができるのも悪くない。」
Aの目線まで屈んだ三日月は、彼女の顎に触れると、息がかかるほどの距離まで近づいてくる。三日月模様の瞳は、吸い込まれそうなほどに澄んでいて、思わず見惚れてしまう。
「お前は世話する側ではなく世話される方だろう。あと、冗談は程々にしておけ。鶴丸に切り掛かられても、私は助けんぞ」
鶴丸は胡坐をかいたまま、刀を抱えてこちらを横目で見ている。
しかし、よく見れば鍔の下部分からはギラリと一部分が除いており、冷たく睨みつけているその視線にAは青くした。
「冗談ではないのだがなぁ。口の悪い主と違って、若くて愛らしい娘なら皆も喜ぶと思ったのだが」
「鶴丸、このスケベじじいは切ってもいいぞ」
ほけほけと呑気に笑う三日月は、そんなことなど気にも留めていないようだ。
「まあ、よいではないか。関わりたくないのであれば、無理に関わる必要もない。1人、増えたところで何も変わらない。そうだろう？」
ずっと黙っていた三日月が、ニッコリとした笑顔でAを見る。
誰一人、反論する者はいなかった。
「では、決まりだな。よろしくな。」
「で、でも、やっぱり迷惑になります！…それはダメです」
段々と弱々しく小さな声で言う彼女に、三日月は座ったまま問いかける。
「行く当てはあるのか？」
「それは…」
「ちょうど使っていない離れがある。鍵は付いていないが、好きに使ってもらってよい。まあ年頃の娘には不憫かもしれんがなぁ。」
「い、いえ、そうではなく！」
「お主はまだ若い。こういう時は、素直に頼ればいいのだ」
三日月は目尻を下げて穏やかに笑った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 97人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：マナ | 作成日時：2021年8月2日 16時
