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自分を見つめる三日月の瞳と目が合った瞬間、Aは思わず見惚れてしまった。
彼の名前通り、夜に浮かぶ三日月が瞳の奥で優しく輝いていたからだ。
「人探しは決して簡単なことではない。だが、何故見つけられたと思う？」
「…先程、私を探すために、お父さんの手帳が必要だと言っておられました。なにか関係あるのでしょうか？」
「ほぉ、中々に理解が早いな。この手帳には、お主の父の"想い"が込められている。そしてお主自身の"想い"もだ。目には見えなくとも、それはしっかりと存在し、"想い"が強い程、その対象を正確に探すことができる。お主がそれを"想う"気持ちもまた然り。愛されているのだな、今も、父と母に」
優しい声に、胸の奥が熱く締め付けられた。
そっと手帳を開けて、そこに挟まれた内の一枚の写真を優しく撫でる。
お父さんとお母さんに抱きしめられて、幸せそうに写っている自分。
「三日月さん。届けてくださって、ありがとうございました！」
パッと花が咲いたように満面の笑みを浮かべたAに、三日月は優しく微笑み返した。
すると突然、広間のほうから数名の怒声が聞こえてくる。
「…どうされたのでしょう？」
「ふむ。なにやら揉めているようだな」
三日月は、静かに立ち上がると、草履を脱いで広間へと歩き出す。
その後にAもついていくと、途切れ途切れだった声がハッキリと聞こえてきた。
「俺は反対だ！知らない人間をここに住まわせるなど、三日月も貴方も何を考えている！」
「では、長谷部よ。どうするのだ？」
「放っておけばいいだろう！」
「年端もいかぬ娘を何か月も雨風しのげない場所に放置しておくというのか？」
長谷部と呼ばれた男に、三日月と先程の美しい女性は交互に問う。
「あの…」
「うるさい！今取り込み中だ！」
「ひゃぃっ…」
「ちょっと長谷部くん！何も彼女にあたることないじゃないか…」
言い争う彼らをみかねてAが声をかけようとすると、ピシャリと長谷部に怒られてしまう。長谷部の物言いに、ずっと黙っていた燭台切がみかねて苦言をさした。
「いや、あ、あぁ…」
しゅんと肩を落としたAを一瞥した長谷部は、気まずそうに言葉を詰まらせる。
「して、主よ。なにを揉めているのだ。」
少し気まずい雰囲気の沈黙を気にも留めず、三日月はそっとAの肩に手を添えてから問う。Aが俯いていた頭を上げ、三日月の方を見れば、彼はニッコリと微笑んだ。
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作者名：マナ | 作成日時：2021年8月2日 16時
