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「あれ…？え、えっ？」
Aが広間の部屋と三日月を交互に見やる。
その様子に三日月はニッコリと微笑むと、彼女の立っている縁側まで寄ってきた。
「まあ、驚くのも無理ないか。蔵であった時ぶりだな。さっきは怖がらせてすまなかった」
「くら…えっと、もしかして、鶴丸さんがいた場所で会った…」
Aが首を傾げると、三日月は笑顔で肯定した。
「はっ！お蔵ということは、もしかして私は人様のお家に勝手に入っていたですか！？」
「正確には、俺のではなく主のだがな」
三日月は視線だけを一瞬、広間に向ける。
「すす、すみません！すみません！」
「ハハハッ、別に主も俺も怒ってはいないさ。」
優しく目を細めて笑う三日月は、縁側に腰を下ろす。
彼は自分の隣を指差すと、黙ったまま笑顔でAを見た。
ここに座れという事だろうか。Aは彼の隣にゆっくりと座った。
「あの…」
「なんだ？」
「鶴丸さんも、もしかして三日月さんのお家の人ですか？もしそうだとしたら、私のせいで怒られているんじゃ…」
Aは先程呼び止められた時の鶴丸を心配していた。
鶴丸に用があったのは、自分を逃がしてしまった事を怒られているのではないか。
広間の方を見ながらそんなことを考えてしまっていた。
「心配せずとも、主が鶴丸に話があるといったのは別件だ。それにあの鶴丸は特別なだけだ。うちの本丸にいるわけではない。」
「ほん、まる…？」
首を傾げたAに、三日月は今ここいる場所のようなことだと優しい口調で説明した。
「おお、そうだ。忘れぬうちにこれを渡しておかねばな」
三日月は足元から鞄を持ち上げると、それをAの前に差し出した。
「これ、私の！もしかしてこれを届けにきてくださったのですか？」
「ずっと持っていたのだが、全く気付く様子がなかったのでな。違ったのかと思ったぞ」
「す、すみません。全然気付きませんでした…」
「ハッハッハ、よいよい。あと、お主を探すためにこれも必要だったのでな。中を開けてしまったのだ。すまなかったな」
三日月は着物の袖を探る。
そこから取り出されたのは、父の手帳だった。
「お父さんの手帳…！」
深緑色の飾り気のない手帳を見て、Aは驚きと嬉しさのあまり、目尻に涙を浮かべていた。
「本当に、ありがとうございますっ！」
「お主は、愛されているのだな」
三日月は目を細めて、優しく微笑んだ。
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作者名：マナ | 作成日時：2021年8月2日 16時
