どちらさまでしょう？ ページ1
最初に感じたのは身体への衝撃だった。
じわじわと緩い痛みが左半分の身体に伝わっていく。
閉じた瞼をゆっくりと開けば、白く鋭角な何かに、思わず瞼を閉じた。
意識が徐々に覚醒するにつれて、それが陽光だと認識する。
いまだに痛みが残る身体を起こそうと冷たい地面に手を付くと、少しの重みを感じて止まる。
ぼやけている視界を違和感のある脇腹へと向けると、白くて細い人間の”手”があった。
ハッと意識が覚醒して、後ろを振り返ってみれば、雪を連想させるような白がそこにいた。
「あ、あの…！」
目を覚ます気配のない彼の肩を恐る恐る揺らす。
掌に伝わる体温とゆっくりと規則だたしく動く肩に、Aは安堵を漏らした。
小さく息をしていた彼は、擦れた呻き声を漏らすと、長く伸びる白い睫毛を上下に瞬かせた。
驚くほどに落ち着いた様子で身体をこちらに向け、金色に輝く宝石のような瞳が無感情に自分を映す。
「だ、だいじょ…うぅっ！」
突然脈打つような鈍痛に頭を押さえて蹲る。
テレビのチャンネルを切り替えた時のように途切れ途切れに流れてくる映像。
意識を失う前の記憶だと直感する。
まるでノイズのような耳鳴りが去ると、酷く自分の呼吸が乱れていると気づく。
思い出した。下校途中の帰り道、どうしてだかわからないけれど、ふとある場所に立ち寄った。
そこには小さな祠があって、大木が傘のように覆っていた。
木の葉が舞うほどの風が吹き抜け、思わず瞼を強く閉じた。
しかし、瞼を開けた先には、先程の祠も大木もなく、ただ黒一色の薄暗い場所に立っていた。
不気味なほど静かなその場所は、建物の中なのだと思わせる。
不安とは裏腹に足は不思議と動いて、自分の靴音だけが響いていた。
どれくらい歩いたのかも覚えていない。
ふと、気付けばどこかの一室に入り込んでしまっていた。
「あれは、なんでしょう？」
見上げてみれば、無数の鎖が薄暗い天井の上まで伸びており、鎖の集まる先には白く長いものがあった。暗闇に慣れた視界が、そこにある白を認識する。
――刀だ
殺風景な黒の空間に、そこだけ照らされているように淡く仄明かるい。
Aはそっと鎖に手を添えた。
ジャラジャラと鎖が擦れ震えだしたのは、彼女の指先が触れた瞬間だった。
「えっ…」
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作者名：マナ | 作成日時：2021年8月2日 16時
