染憶 ページ16
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いつか万里と海で話したことを思い出した。
「ねえ万里、もしも今日で世界が終わるって言われたらどうする?」
一歩踏み出す度に素足に絡みついてくる白い砂を眺めながら隣の万里にそう問う。
その時万里はなんて答えたんだっけ。
確か、「そんなことあるわけねぇだろ」って笑ってた。
万里なら何となくそう言いそうだな、なんて思いながらも「あるかもしれないでしょ」と返す。
思ったよりも沈んだ声が出た。
「でもまあ、お前には会わねぇな」
その一言を聞いた私は立ち止まる。
それを気にせず数歩進んだ万里は振り返って続けた。
「だって、──・・・」
この続きは何だった?
───────・・・
─────・・・
───・・・
まさか本当に24時間後に地球が消滅する日が来るとは思っていなかった。
衝撃的だったはずのあの海での記憶は何故か曖昧で。
地球が消滅すると知ってから唯一思い出したのは、帰り際に「また来ようね」と約束した事だけだった。
気が付いたら、あの海に来ていた。
万里とはあれから少し経って別れた。
嫌いになったとか、どっちが悪いとかそんなことは無く、ただごく普通に、まるでそれが運命だったかのように自然な別れ方だった。
もう会えないと分かっていても未だに私の中には万里がいた。
私の分まで何でもソツなくこなすし、思った事は正直に言ってくれる。
見かけによらず礼儀正しいし、よく意地悪してくるのにさり気なく優しさを見せてくる。
負けず嫌いで、特にお芝居のことになると熱くなるし絶対に妥協はしない。
自分だって劇団に入っていて忙しいのに私の事を気にかけてくれて、一番に考えてくれて、少し甘かった。
春にはお花見をした。
満開の桜と万里の組み合わせが最高に綺麗でこっそり写真を撮った。
夏にはお祭りに行って花火も見たし、野外フェスにも行った。
浴衣姿を褒めてくれたし、お互い真っ赤に日焼けして笑いあった。
秋には万里のお芝居を沢山見た。
いつもとは違う姿が見られていっぱい惚れ直した。
冬には遠くまで綺麗な星を見に行ったし、クリスマスデートもした。
あの時の夜空は未だにスマホの待ち受けにしてるし、貰ったプレゼントはそのまま使う事も捨てる事も出来ずにいる。
本当に今から地球が消滅するとは思えないほど静まり返る穏やかな海を眺めながら考えるのは、忘れようとしていた万里の事ばかり。
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作者名:みん x他3人 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/awoike_3th
作成日時:2018年6月3日 20時