丸山さんの婚約者。 (ページ1)

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「あんた、そんな事もできひんの？」

鈴華が私に向かって味噌汁の茶碗を投げる。
飛んできた味噌汁が顔にかかった。
痛い。
けどすぐに動かないとまた鈴華に怒鳴られる。

「申し訳ございません…」

「全く！役立たずも良いところやな！分かったらさっさと作り直して来なさい！」

「はい」

私は鈴華の食事を全て下げて厨房に持って行った。

私の家…永里家は裏社会でとても大きな力を持っている。表向きは会社を経営している富豪の家庭だ。
私は永里家の次女に産まれた。
けれどこの家を継ぐのは男だろうと女だろうと長子と決まっているので姉の鈴華は優遇され、私は使用人…いやそれ以下の生活を送っていた。
実母も実父も庇ってくれない。
使用人たちも見ているだけ。
この家は鈴華を中心に回っていた。
高校にも行かせてもらえなかった。

あーあ、今日もご飯抜きか…
こうやって鈴華の機嫌が悪い日はご飯を食べられない。一度無視して隠れて食べたけど見つかって3日間外の倉庫に閉じ込められた。もちろん食料も水も無い。それからは機嫌の悪い日は食べていない。
私は基本この家では邪魔者としての扱いを受けているので使用人たちからも虐げられていた。
とりあえずしっかりと鈴華のご飯を作り直し配膳は使用人に任せ私は庭の掃除をする事にした。

しばらく掃除していると

「Aやん！」

と言う声が聞こえた。

振り向くと幼馴染みの安田章大が立っていた。
章大は私たちの２つ上。
安田家もまた富豪の家庭で裏社会でも大きな力を持っていた。

「Aはまたそんな格好で掃除してるん？」

「うん。」

章大は私が心を許せる相手だった。

「A、シーやで！」

そう言って章大は紙袋を渡して来る。
中を見ると女の子ものの服が沢山。

「いっつも僕のお下がりでごめんな？」

「ううん。貰えることが嬉しい。ありがとう。」

私がお礼を言うと章大はへへっと笑った。
章大はいつも私に服をくれる。
彼は女の子ものの服もしょっちゅう着るからそのお下がりやけど。

でもなかなか服を買ってもらえない私にはすごく嬉しかった。
もちろんバレるといけないので自分の部屋で着て楽しんでいる。
まあ部屋と言っても物置で鈴華の部屋の10分の1くらい。

「あんな、A、もうAに服あげられるの最後になるかも知れん。」

「え…？」

どういう事…？

その時、

「章大、何してるの。」

章大の両親が現れた。

2人は私を睨んでから章大を連れて屋敷に入って行った。