第九十六話 名声よりも大事なこと ページ13
「作戦は一応成功か。後は改心が起こるか、だな」
「『サユリ』……」
斑目のオタカラであった『サユリ』を見つめる祐介。
「斑目の歪んだ欲望の正体がこの絵だったなんてな。これを描いた母さんが知る由もないのがせめてもの救いだ」
「アトリエにあるホントの本物は塗り潰されちまっているワケだもんな…。皮肉だが今やこっちが『真実の自画像』ってわけだ」
母親が自分の子供を抱き抱え、愛おしそうに見つめる温かい絵。
その真実を世界中の人が知ることはできないけれど、何より祐介に真実が伝わって本当によかったとAは思う。
「すっごくいい絵だね。それに時間はかかっちゃったけど、ちゃんと祐介に届いた」
「感謝している。……だけど、今更この絵が認められる事は世間的にもあり得ない……」
祐介の複雑な気持ちはすごく理解できる。
こんなに素晴らしい絵が認められないのは、悔しいだろう。
……でも。
「きっと満足だろう」
「わたしもそう思う。きっと『サユリ』は名声よりも祐介への愛情を一番に考えてできた作品だから、こんなにも美しいんじゃないのかな」
「……そうだな。Aの言うようにこの優しい表情は、名声を欲して作られたものではあるまい」
「これが母さん。顔なんてハッキリとは覚えてない筈なんだが……。この絵を見た時の衝動、間違いじゃなかった」
Aはにこりと笑う。斑目が改心したかはまだわからないが、祐介のこの表情を見れただけでオタカラを奪った価値は十分にあったと思った。
「つか、これからどうすんだ?俺らはこれからも大物を狙ってくけど」
「……なぜ、そんなことを?」
「クソみてえな大人とか、社会? それを見返すためだ。大人の身勝手に苦しんでるヤツらをさ、勇気づけてもやりてえし」
「勇気、か。与えてどうする? 抗う勇気ってことだろう? それがあれば幸せになるのか?」
「それはわからない。でも明日を生きる活力にはなると思うんだ。少しでも幸せに近付くための」
幸せはきっと人それぞれ。
それでも『勇気』が幸せへと近付く糧になることはみんな一緒だろう。
「(わたしたちは、それをできるだけ多くの人たちに与えたい)」
「なら、今の俺と同じだな。俺も大人の身勝手に苦しんだ一人だからこそ、同じような境遇の人々に勇気を与えたい。それにパレスとやらの探索をすれば着想の幅が広がるかもしれない」
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すみれ(プロフ) - テイル@パピコ同盟さん» コメントありがとう〜〜!こちらこそ返信遅くてごめんね。更新頑張ります!これからもよろしくね! (2020年7月11日 16時) (レス) id: 28009c6402 (このIDを非表示/違反報告)
テイル@パピコ同盟(プロフ) - 続編おめでとう!最近話せてなくてごめん!頑張ってね!これからも応援するよ! (2020年7月11日 6時) (レス) id: f918ed1ff0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:すみれ | 作成日時:2020年7月10日 21時