両片思いⅡ【Fischer's】 (ページ13)

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No.58 潮の香りに置いていかれて④ ページ13

Silk side

全身についた砂を払いながら、「てか海入ればいいじゃんw」という結果に行き着いた俺達。

ン「てかまた1人で行かせちゃったね」

モ「ほんとだ、あとで謝んなきゃね」

“今日明日、お前1人にならないで”

ンダホとモトキの会話に、さっきの俺の言葉が頭を過る。今、あいつまた1人だ。

シ「……あいつ大変だろうから、俺行ってくるわ」

何故か頭に浮かぶ嫌な予感。

＿＿＿＿そして、俺の予感は当たりやすいのだ。

『しつこいです！離してください！』

見知らぬ男に肩を抱かれ、必死に抵抗するAの姿が。やっぱり、“ナンパ”されている。

男「嫌がる顔もかわいー！ほらやな事しないって」

男の力が強く、徐々に持っていかれる彼女の足。

＿＿＿立ち止まって見てる場合じゃない、助けてやらねぇと。

シ「人の女に手ぇ出してんじゃねぇよ」

気づいたらそう口から零し、彼女の手を引いて腕の中へ収めていた。Aの目は固く閉じられ、長い睫毛には涙が僅かに浮かんでいた。

男「なんだ彼氏持ちかよ。折角可愛い子見つけたのに」

こいつの脳みそは腐ってるのだろう。男は俺が言った途端つまらなそうにどこかへ行った。

シ「大丈夫か？俺だから怖くないぞ」

『ん……、シル…ク？』

「痛かった…」と、か細く呟く彼女の背を摩り、そういえばさっき“人の女に”とか言ってしまったと気づくが今更遅い。

Aがゆっくりと目を開けると、その片方から涙が一筋流れ落ちた。

シ「ごめん、また1人にさせた」

俺がそう言って人差し指で涙を掬うと、Aはふるふると首を横に振った。

『助けてって思ったらすぐ来てくれたから大丈夫だよ…？』

シ「元から一緒に来てれば怖い思いしなくて済んだろ？」

『見つける自信ないとか言って、ちゃんと見つけてくれたでしょ。おまけに堂々と俺の女宣言付きで』

シ「…あん時はその方がいいと思ったんだよバカ」

『……それでも嬉しかったの』

ぎゅっと俺の胸に顔を押し付けるA。しかしその手は微かに震えていた。

シ「俺コーラ持ってやるから、お前は俺の手でも握ってその震え止めろ」

Aの腕からコーラを何本か抜き取り片手で抱える。そして空いた片手で震えた手をそっと握った。

『っ…!!まって…急に、そういうのずるい……！』

シ「うっせ、戻るぞ」

俺はAの半歩先を歩いてみんなが待つ所へ戻る。そこでみんなが涙ぐんだAの顔を見て驚いていたのは言うまでもない。