水槽に迷い込んだ貴女Ⅱ【Fischer's】【短編集】 (ページ44)

今日:16 hit、昨日:1 hit、合計:96,156 hit

『おあずけ食らう』ダーマ×恋人ページ44

ダーマside

ある秋の日だった。

その日はもう真冬のように寒い日で、午後2時から彼女と会う約束をしていた。その約束まで少し時間もあったし、何より室内にいても少し寒かったから、寒さに弱い俺はゴロゴロしながらゲームでもしようと寝転がった。

室内にはボタンのカチカチという操作音と、ゲームの中のBGMやキャラクターの声。

10連勝ほどした頃だろうか、俺は目の疲れと暖房の温もりによって訪れた睡魔に襲われ、少しだけ、と目を閉じた。

•*¨*•.¸¸☆*･ﾟ

ゆっくりと意識が戻ってきて、眼鏡をしたまま眠ってしまったことに今更気付き、それを外してまだ眠たい目を擦る。

ダ「ふぁ……今何時だぁ…？」

外した眼鏡を掛け直し、数回の瞬きの後スマホの示す時刻を確認する。

“17:23”

約束の時間は2時。今の時刻は大体5時半……って大遅刻じゃねぇか!?!?

数分だけの居眠りのつもりが、がっつり睡眠になってしまった。

急いでスマホと財布と自宅の鍵だけ鞄に押し込み家を飛び出す。この時期の日の入りは早く、当たりはもう暗くなっていた。

約束の時間から3時間半、完全にやらかした。こんな時間まで俺から何の連絡もなしで、あいつがただ1人待っているわけが無い。流石にもう帰ってしまっているだろう。

だけど、もしまだ俺の事を待ち続けているとしたら＿＿＿＿。

そんな可能性が頭を過ぎる度に、俺は約束の場所まで走る速度を上げ、彼女のLINEに急いでメッセージを打つ。

“わるい！いまからすぐいく！”

漢字に変換する余裕もないくらい俺が急いでいるのを悟って欲しい。赤信号での待ち時間すら長く感じ、逸る気持ちを抑えるのも何とかで。

慌てて家を出た所為で厚い上着を持って来ず、冷たい秋風がパーカー越しに俺の肌を刺す。指先は凍りそうなくらい冷え、悴んだ手に一息吹きかけまた走る。

約束の場所、駅前の公園の前。街灯の灯りに辺りを見渡し、あいつの姿を探す。

先程送信したメッセージにも既読の文字は着いておらず、もちろん返信もない。悴んだ指でまたメッセージを打つ。

“どこにいる？今公園の前にいる！”

そんな内容をいくら送っても一向に既読はつかない。帰ってしまったならまだいい。もし誰かに連れていかれたり襲われたりしていたら…。

そんなことがあったら、自分を許せない。あいつにも顔を見せられなくなる。

そんな時、俺とお揃いだと喜んでいたコートを着た、見覚えのあるショートヘアが。

ダ「A…？Aか……？」