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「はあ……」
「大きなため息。幸せ逃げちゃうよ？」
「ジェシーくん、」
「何かあったの？」
「別に、なんでもないよ」
「そう？いつもより稽古に集中出来てないかなって思ったんだけど。話して楽になるなら聞くし、言いたくないならそれでもいい。でも、稽古もお仕事だからさ」
「…すみません。休憩後は頑張るので」
「あ、別に責めたいわけでもないの！俺は座長だからみんなが楽しく仕事出来たらいいなってだけで」
あたふたするジェシーくんがちょっと可愛い…って私は何を考えているんだか。
ちょっと長い休憩時間に人目の付かない所まで逃げてきたはずなのに、ジェシーくんにはいとも簡単に見付かってしまう。いつも同じ所に居るわけじゃないのに、なんでだろうか。
「あのさ、Aちゃんて…」
「ん？」
「うちのメンバーだと誰と共演したことあるっけ？」
「ジェシーくんの…？ああ、松村くんと高地くんと、田中くんも同じバラエティに出たことあったかな。直接話したわけじゃないけど」
「大我とはない？京本大我」
「…京本さんは、共演したことないけど」
「この間大我と本屋さんで会ってちょっと話したって聞いたから知り合いだったかな、って思ってさ」
「京本さんが何か言ってた？私と何を話したかとか」
「あ、いや別に何も。でも、大我とは面識あったってことだよね？それならそうと大我も言ってくれればいいのに」
「…ごめん、私先に戻るね」
「へ、Aちゃん！？」
背中からジェシーくんの声が響くけど振り返らずに私は稽古場に戻った。周りに人が居ればジェシーくんが個人的に話し掛けてくることはないってわかってるから。
まだ彼のことを知られる訳にはいかない。
稽古が終わってまだ夕日が差す自宅へと帰って来た。相変わらず返事のない“ただいま”は僅かに反響して聴こえて、それがいつも以上に悲しく感じる。
静かな空間が苦手だからテレビか動画をいつも点けるけど今日はタブレットでYouTubeを開いた。
「あ、ジェシーくん」
ジェシーくんたちのグループの動画がオススメに表示されていて何も考えずにタップした。どうやらライブでの映像のようだけど、私はジェシーくんたちの歌をほとんど知らない。
「すご…こんなに沢山のファンがいるんだ」
ちらりと映った客席には私が経験したことのない人数のファンの方々、改めてジェシーくんはすごい人なんだと認識する。キラキラ輝くジェシーくんが遠い人みたい。
「はあ……」
今日もまたジェシーくんからのメッセージは数字を重ねていく。
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作者名：いか | 作成日時：2023年9月23日 19時
