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「「あ、」」
たまたま行った本屋さん、大好きな漫画の新刊を手に取ろうとしたら隣から同じように手が伸びてきて顔を上げる。正に映画か漫画か、と思うくらいの出来事に驚くと同時にその場に居た人に納得。
「京本さんもお好きでしたね、この漫画」
「あ…うん」
１冊ずつ手に取って少しの沈黙の後に先に動いたのは私。レジの方へ足を進めると肩に掛けてたトートバッグの持ち手に遠慮がちに重力が掛かり振り返る。
「待って」
「っ、なんですか」
「ジェシーのこと、期待持たせるようなことはやめてよ」
「私は何も、」
「ウソ。本当に嫌ならブロックなり無視なり出来るじゃん。それをしないでジェシーに淡い期待持たせて、」
「今は舞台があるので…終わったら京本さんのお望み通りブロックして連絡先は消しますよ」
こんな私情で素敵な舞台に水を差したくはない。元々連絡を取っているとは言えないような感じだったし、私１人の連絡先が消えたところでジェシーくんには何の影響もないだろう。
「ねえ、」
「まだ何か？私と違って忙しいでしょうし、この後もお仕事なのでは？」
「…俺はAにも幸せになる権利はあると思う。いつまでも過去に捕らわれていて幸せ？」
「っ、少なくとも京本さんに心配されるほど私はまだ落ちてませんよ」
「可愛くないな」
「あなたに可愛いとか思われても嬉しくないので」
失礼します、と一礼して向きを変える。楽しみにしてたのに、新刊を読むのは明日にしよう。
「ほんと、可愛くない」
「ん？大我どうしたの？」
「別に。ねえジェシー、さっきAさん居たよ。ちょっとだけ喋って帰ったけど」
「え！？なんで教えてくれなかったの！？もう帰っちゃったかな？」
「多分ね」
雑誌コーナーで立ち読みしていたジェシーは彼女に気づかなかったみたいで慌ててスマホを手にしている。どうせ返事が返ってくることはないのに、無駄なのに、なんて言えばジェシーは怒るのだろうか。戸惑うのだろうか。
「あれ？大我とAちゃんって接点あったっけ？」
「ん？ジェシー何か言った？」
「…ううん。なんでもない」
「そう？みんな待ってるだろうし、早く戻ろうか」
「そうだね！今日のYouTubeの撮影なにやるのかなあ」
「運動系じゃなきゃ何でも良いかな」
案外鋭いんだよな、こいつ。
でもまだダメ。
まだ本当のことは言えない。
▽▽
順位の更新ありがとうございます。今回も京本さんには引っ掻き回してもらおうかな、なんて。
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作者名：いか | 作成日時：2023年9月23日 19時
